ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 

チアミン（ビタミンB1）は犬や猫に必要です。
 

腸内細菌から作られるかもしれませんが、食べ物から摂取しなければなりません。
獣医療では、劣化したフード、じゃがいも、アンチョビなどの偏った食事によるチアミン欠乏症が報告されています。
 

欠乏症がすすむと、神経症状や心不全症状を起こし、命を脅かすことがあります。
欠乏する原因として、研究報告では、「型破りな食事」「従来のペットフード」などが掲げられています。
 

代謝異常や基礎疾患がなければ、普段の食事で、摂取することが大切ということです。
 

長い歴史を考えれば、チアミンが犬猫の自らの細胞で作れないのは、普段食べている食事に十分含まれていたから、だと考えられます。
 

肉類だけでなく、穀物や豆類、イモ類などにも含まれており、野生の犬猫においては、採食や消化機能が問題なければ、摂取不足による、チアミン欠乏症は生じていなかったと思います。
 

食事によるチアミン欠乏症は人が犬猫を飼育するようになってから、出現した病気かもしれません。
 

炭水化物の代謝にチアミンは必要です。興味深いのは、人のチアミン欠乏症は、発展途上国で、精製されている米などの炭水化物を多く摂っている人に起きやすいことがわかっていることです。
 

犬猫は肉食動物です。肉には炭水化物はほとんど含まれてないし、肉には豊富にチアミンが含まれるので、野生の犬猫ではチアミン摂取不足はないと思います。猫にとって、現在のペットフードの炭水化物は多く、野生の犬猫に比べたら、チアミンの必要量が増大しているのかもしれません。腸内細菌からチアミンは作られるようですので、その細菌の種類が食べ物によって変化していることも関連があるかもしれません。
 

ペットフードには栄養素を整えるため、ビタミン剤が添加されることがあります。製剤で与えられているビタミン剤と、食物に含まれるビタミンは、同じようには働かない可能性があります。
 

想像の域をでませんが、現代の飼育されている犬猫には意外とチアミンが不足しているのかもしれません。猫の肝リピドーシスは、チアミンを投与しますが、疾患の背景のひとつとして、チアミン欠乏が関連しているのかもしれません。
 

完全総合栄養食とうたわれている、ペットフードも、販売されている１５％位が、チアミンが不足している可能性があります。また、ペットフードの開封後、チアミンは時間につれて、徐々に無効化している可能性があります。
 

要するに、「手作り食の他、完全総合栄養食でも、チアミン量が足りてない可能性があり、炭水化物（特に糖質）が多いと、その代謝のためのチアミンの消費がその分多くなるので、欠乏症のリスクがあるのではないか」と考えます。
 

多くの獣医師が、神経症状を起こしても、チアミン欠乏症は念頭にはありません。総合栄養食は完全で、栄養失調はまずないと考えているからです。
 

臨床家として、私はチアミン欠乏症を診断することは難しいので、体調の悪い犬猫や入院が必要な場合、チアミンの含まれたビタミン剤を輸液剤に入れたりして、チアミンの補給をするようにしています。



Chang YP, Chiu PY, Lin CT, Liu IH, Liu CH. Outbreak of thiamine deficiency in cats associated with the feeding of defective dry food. J Feline Med Surg. 2017 Apr;19(4):336-343. doi: 10.1177/1098612X15625353. Epub 2016 Jul 9. PMID: 26783020.

Kritikos, Georgia, Jacqueline M. Parr, and Adronie Verbrugghe. "The role of thiamine and effects of deficiency in dogs and cats." Veterinary Sciences 4.4 (2017): 59.

Markovich, J. E., Heinze, C. R., & Freeman, L. M. (2013). Thiamine deficiency in dogs and cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 243(5), 649-656. Retrieved Nov 28, 2023

Wiley KD, Gupta M. Vitamin B1 (Thiamine) Deficiency. [Updated 2023 Jul 17]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537204/