ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 
 

転移のステップとしては、まず、腫瘍細胞から転移する細胞が離れ、血液の循環に入り、転移先の臓器にたどり着き、増殖する、という古典的な考えがあります。
 

例えば、循環腫瘍細胞（CTC）というのがあります。腫瘍細胞からはなれて、転移を狙っている細胞です。どこかに着地し、増殖すると転移が生じます。
 

CTCは、血液の中に存在し、ぐるぐる体内を循環していますが、流れが早いので、その足場となる場所に、なかなか引っかかることができません。血管からでれれば、転移がしやすくなりますが、血管壁にくっつき、血管壁を通過し、他の組織に侵入するのは至難の技でしょう。
 

手術には出血が伴います。血管からでることができれば、手術で切った場所、お腹の中などに、たやすく入り込むことができます。これにより、転移する足場を確保しやすくなるのは、容易な理屈です。
 

また、手術とは、人工的に起こす大怪我とも言え、体は治そうと、修復のための細胞をたくさんつくろうという状況になります。不本意ですが、同時に腫瘍細胞も増殖しやすくなります。
 

さらに、麻酔により免疫機能は落ちますので、がんをやっつけるNK細胞の機能などは落ちるでしょう。
 

ようするに、「手術や麻酔により、転移のきっかけが増え、がん細胞が増殖しやすい状況ができる」ということです。
 

獣医学においては、教科書はもちろん、世界の獣医学の研究報告でも、私が知る限り、同様の考えはみたことがありませんが、臨床経験から、確実に、それはあると考えています。
 

今のところは、根治を目的とした腫瘍外科に延命効果があるかは、非常に疑問があることもあり、当院では、積極的には行いません。一方、手術により、生活の質が改善が見込まれる場合には、手術を行います。
 

想像ですが、大きな動物病院や人でも、同様なことは起きていると考えます。それが認知され、医療に反映されるまでは、何年もかかるでしょう。小さな個人の動物病院の良いところは、治療方針を即座に転換できることです。




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