2024/06/07
珍しい糖尿病
ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
糖尿病の診断には迷うことは少ないです。
犬猫の糖尿病は、たいてい、水をたくさん飲む、痩せてきた、があり、血液検査で高血糖を確認し、尿中の糖を確認することで、診断が容易であることがほとんどです。
単純な糖尿病の診断と治療は難しくありませんが、糖尿病の背景に、病気が隠れている場合があります。様々な炎症性疾患やその他のホルモン性疾患が潜んでいる場合があります。それが、糖尿病を起こす原因であったり、糖尿病を悪化させる原因であったりし、これらの診断の方が難しいことがあります。
そのような場合は、治療の要となるインスリンの注射が効きにくいことがあり、血糖値が高く推移し安定しません。
つまり、糖尿尿の診断は簡単であるが、他の要因がからんでると、その要因の特定や糖尿病の治療が難しいことがあります。
先日のお年を召したワンコは、日に日に痩せてきて、水を沢山のみ、血糖値が600mg/ dL以上あり、いくつかの検査で、単純な糖尿病と診断し、インスリンの注射による治療をすぐ開始ししました。
しかし、インスリン注射しても血糖値が下がりにくいため、様々な追加検査で、他にめずらしい病気がないかいろいろ調べましたがそれはみつかりません。
定法どおり、インリンの注射の量を増やしましたが、血糖値が下がりません。かと思えば、急降下することもあり、不可解です。急降下しすぎて、低血糖によるけいれんを起こしたこともあります。これは初めての経験です。
数週間にわたる血糖値の評価の血液検査では、正常です。ここも解せません。
なにか見落としている大きな原因がある、と考え、高度医療施設を紹介しました。しかし、そこで検査をしても、特別異常はないと判斷され、当院の治療は妥当だということで、現状維持になりました。
その後は食欲があり生活ができていましたが、体重が増えません。やはりおかしいです。念の為「甲状腺ホルモン」を測定してみました。
予想外でしたが、甲状腺ホルモン値が非常に高く、その後の追加検査で、甲状腺がんを強く疑いました。
これにより、違和感が氷解しました。すべての辻褄があいます。
過剰な甲状腺ホルモンは血糖値を上昇させますし、インスリン抵抗制が増加するので、インスリンが効きにくい状態になります。また、代謝が促進され、エネルギーが過剰に消費され、痩せてきている可能性があります。がんで痩せている可能性もあります。
ただ、甲状腺ホルモンが高いことや腫瘍により糖尿病になることはないので、糖尿病か、糖尿病の予備軍である考えています。
原因がわかれば治療方針は決まります。腫瘍化した甲状腺の摘出がオプションです。この手術は一般病院では難しく、非常に珍しいケースなので、他の高度医療施設を紹介しました。
高度医療施設では、手術は適応であるが、ほとんど前例がないため、予後が予想できないとのことでした。甲状腺ホルモンを下げる飲み薬がありますが、それを飲んでどうなってくかも、情報がなく、どうなるかわかないとのことです。
つまり、専門家でさえ、手術をしても、薬を飲んでもどうなるか予想はできいということです。手術は甲状腺の他、上皮小体というカルシウムを整えるホルモンがでる分泌腺も犠牲になることから、かなりリスクがあります。また、転移がすでに起きている可能性もあるので、手術による転移の促進もあり、延命効果は期待できないかもしれません。
甲状腺ホルモンを抑える薬は、副作用が強く出る場合があります。猫では一般的ですが、犬ではどうなるかデータがほとんどありません。
ご家族から、主治医は高度医療施設の専門医であるが、今後治療はどうしたらよいか相談がありました。幸いなことに、ここ数ヶ月は、インスリン治療で安定しています。
私の臨床家としての考えとして、「元気食欲があり、なにか悪い症状がなければ積極的な医療介入はしない」という方針があり、高齢なほど、これが当てはまると考えているので、私は甲状腺の腫瘍は放任し、現在の糖尿病の治療を続けるのがよいと考える、お答えしました。
治療はせず、「放任」も、立派な医療のひとつです。それがベストな場合が意外にあると考えています。
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