ふじみ野市
大井みどり動物病院
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2024/07/20

二次がん 2

ウイルスのようなもの
 
 
 

 


獣医師は職務特有のリスクをうける覚悟があります。抗がん剤の暴露はその一つです。その他、レントゲン検査での放射線被爆や動物に噛まれるリスク、感染症にかかるリスクは受ける責務はありますが、第三者の方や他の犬猫がそのリスクを背負ってはならないと考えます。

 


抗がん剤を扱う医療者は、自らががんになるリスクを背負う必要が職務上あります。出産にも影響する可能性があるので、現場に入るまでに、そのリスクを知っておく必要があります。特に順調な出産の希望が有る場合は、そのリスクを熟知しておく必要があります。

 


大学や看護学校で、そのリスクを習う必要があるし、今後は、抗がん剤を扱う動物病院と雇用契約を結ぶ時、そのリスクの記載がないと、問題が生じる可能性があります。おそらく、現時点では、このリスクを包含した契約書でないものがほとんどでしょう。

 


獣医師には抗がん剤治療をする権利、患者側には受ける権利、がありますが、他人の健康を脅かしてよい権利はありません。

 


他人に害を及ぼさない為には、抗がん剤投与中は、専用の施設に隔離し、厳重な管理の下、治療する以外方法はないと考えています。世界にそのような犬猫の施設はないと思いますし、長い時間隔離することはよい獣医療といえないでしょう。おそらく、経営的にも難しく実現は不可能でしょう。

 


昔は許容できると考えていましたが、研究報告をみると、そうはいえない可能性があることがわかりました。人と比べると様々な制限がかかるのが獣医療で、その制限を甘受するのが日常ですが、この暴露のリスクはそのように扱えない問題かもしれません。

 


獣医療で、このような考えが今後は徐々に大きくなっていき、問題が議論されていくと思います。犬猫のがん治療には、看過できない副作用の他、様々な課題や矛盾があり、難しい治療だと考えています。

 


長くなりましたが、ようするに、抗がん剤治療には、新たな「二次がん」や他の疾患のリスクがあるうえ、第三者にがんを起こす可能性があるのです。

 


もしかしたら、第三者に生じたがんは今後「三次がん」とよばれるかもしれません。

 


仮にそれを、「三次がん」と呼ぶとして、「三次がん」の実態がどうなのかは、判定することが非常に難しく、実態を把握するには、何十年も先になるのではと予想しています。実際は、あまり大したことがない可能性もありますが、正確な評価は無理だと考えます。

 


私達は、抗がん剤治療には「二次がんのリスク」があり、周囲の人や動物への「三次がん」のリスクを高めていることをを知っておく必要があります。

 


特に小さなお子様や高齢者がいるご家庭、妊娠中や出産予定のあるご家庭では、「三次がん」のリスクをよく考える必要があると思います。

 


少々悲観的な見方であり、あまりこのようなことに言及している獣医師はいないと想像しますが、実態がわかっていない上、第三者にもリスクがともう可能性があるので、なるべく安全域で考える事柄だと考えています。

 


考えてみれば、抗がん剤は、感染症の病原体と似ています。伝染力は弱いですが、病原体としては強烈です。抗がん剤は、「がんを起こすウイルスの様なもの」と捉えることができます。そのハザードレベルは、高いでしょう。

 
 
 
 
 
参考文献
 
 
「獣医腫瘍学における化学療法の安全性は、汚染レベルが人間の施設よりも最大 15 倍高いことや、曝露が診療所の壁を越えて患者とその家族に及ぶことなど、課題に直面しています」
Klahn, S. (2014). Chemotherapy safety in clinical veterinary oncology.. The Veterinary clinics of North America. Small animal practice, 44 5, 941-63 . https://doi.org/10.1016/j.cvsm.2014.05.009.


「抗がん剤は、脳症、錐体外路反応、発作、小脳機能障害、網膜症、脳静脈血栓症、脊髄症、認知障害、精神症状などの神経毒性を引き起こす可能性があります」
Sorsa, M., Hämeilä, M., & Järviluoma, E. (2006). Handling Anticancer Drugs. Annals of the New York Academy of Sciences, 1076. https://doi.org/10.1196/annals.1371.008.

「多くの抗がん剤は実験的検査で発がん性物質および遺伝毒性物質として認識されており、治療を受けた患者で二次がんが記録されています」
Sorsa, M., Hämeilä, M., & Järviluoma, E. (2006). Handling Anticancer Drugs. Annals of the New York Academy of Sciences, 1076. https://doi.org/10.1196/annals.1371.008.

「抗がん剤はおそらくほとんどが発がん性があり、アルキル化剤は二次がんの発生率が最も高くなります。」
Rieche, K. (1984). Carcinogenicity of antineoplastic agents in man.. Cancer treatment reviews, 11 1, 39-67 . https://doi.org/10.1016/0305-7372(84)90016-1.

「小児がん患者の介護者は危険な薬物にさらされるリスクが高く、たとえ低用量であっても晩期障害や重篤な臓器毒性を引き起こす可能性があります」
Noda, Y., Koga, Y., Ueda, T., Hamada, Y., & Ohga, S. (2021). High risk of hazardous drug exposure in caregivers of pediatric cancer patients. Pediatric Blood & Cancer, 68. https://doi.org/10.1002/pbc.29019.

「外来化学療法を受けている患者の排泄物を介して、家庭環境の汚染と家族がシクロホスファミドに曝露していることが実証されました」
Yuki, M., Sekine, S., Takase, K., Ishida, T., & Sessink, P. (2013). Exposure of family members to antineoplastic drugs via excreta of treated cancer patients. Journal of Oncology Pharmacy Practice, 19, 208 - 217. https://doi.org/10.1177/1078155212459667.

「母親の職業上の抗癌剤への曝露は、1歳以上の子孫の急性リンパ性白血病の潜在的な危険因子となる可能性がある」
Yamamoto, S., Sanefuji, M., Suzuki, M., Sonoda, Y., Hamada, N., Kato, W., Ono, H., Oba, U., Nakashima, K., Ochiai, M., Kusuhara, K., Koga, Y., & Ohga, S. (2023). Pediatric leukemia and maternal occupational exposure to anticancer drugs: The Japan Environment and Children's Study.. Blood. https://doi.org/10.1182/blood.2023021008.

「家族は癌患者の排泄物を介してシクロホスファミドや5-フルオロウラシルなどの抗腫瘍薬にさらされるリスクがあり、患者と医療従事者の両方が厳重な予防措置を講じる必要があることが浮き彫りになった」
Yuki, M., Sekine, S., Takase, K., Ishida, T., & Sessink, P. (2013). Exposure of family members to antineoplastic drugs via excreta of treated cancer patients. Journal of Oncology Pharmacy Practice, 19, 208 - 217. https://doi.org/10.1177/1078155212459667.

「化学療法を受けている患者は家庭内での汚染源となる可能性があり、子供や高齢者など感受性の高い家族に危険をもたらす可能性があります」
Blahová, L., Kuta, J., Doležalová, L., Kozáková, S., Hojdarová, T., & Bláha, L. (2021). Levels and risks of antineoplastic drugs in households of oncology patients, hospices and retirement homes. Environmental Sciences Europe, 33, 1-11. https://doi.org/10.1186/s12302-021-00544-5.

「抗腫瘍薬への曝露は、自然流産、早産、不妊、胚異常、細胞核の損傷、看護師のさまざまな癌などの合併症を引き起こす可能性があります」
Nejat, N., & Mehrabi, F. (2019). The Occupational Hazards of Exposure to Antineoplastic and Chemotherapy Drugs in Nurses. A systematic review. Iranian Journal of Cancer Care. https://doi.org/10.29252/ijca.1.3.20.

「危険な抗がん剤を扱う腫瘍学従事者は、がんのリスク、皮膚障害や呼吸障害などの急性の影響、生殖能力の喪失に直面しています」
McDiarmid, M. (2018). 1606b Environmental sampling and human biomonitoring for hazardous drugs: implications for worker health and risk of harm. Occupational and Environmental Medicine, 75, A327 - A327. https://doi.org/10.1136/OEMED-2018-ICOHABSTRACTS.936.

「医療従事者は、遺伝毒性反応、催奇形性の結果、がんの増加など、抗腫瘍薬による有害な影響を受けるリスクがある可能性があります」
Connor, T., & McDiarmid, M. (2006). Preventing Occupational Exposures to Antineoplastic Drugs in Health Care Settings. CA: A Cancer Journal for Clinicians, 56. https://doi.org/10.3322/canjclin.56.6.354.


 


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