2024/08/03
がんとインスリン注射
ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
転移はがん患者の主な死亡原因です。犬猫はがんを患うことがよくありますが、私はがんが死因になることは言われているほど多くはないと感じています。
転移は臓器不全や免疫不全を起こしますが、生命を維持できなくなるほどのそれは、犬猫では多くありません。
おそらく、高齢な犬猫の死因として多いのは、老衰、腎不全、免疫低下による肺炎や敗血症、循環不全、であり、それらが複合してる場合が多いと考えています。
腫瘍による二次的な原因による死、例えば、腫瘍の破裂による腹腔内出血、腫瘍からの心嚢水のよる心不全、物理的な圧迫による排泄困難や呼吸困難などは時折ありますが、腫瘍細胞が転移増殖することによる直接的な機能不全による転移死は、それに比べると、かなり少ないと感じています。
後述の転移死で、特殊な例として複数経験があるのは、インスリン治療中の猫の乳がんの転移死で、急な肺転移を起こし呼吸不全になり最期を迎える事例です。
一般的に乳腺腫瘍の肺転移は珍しくありませんが、インスリン治療中の糖尿病の猫は乳腺がんの転移の悪化が早く、その転機は激しいものだと思います。インスリン治療中の糖尿病の猫はがんを悪化しやすいかもしれません。
あまり知られていませんが、インスリンには血糖値を下げるだけでなく、様々な負の側面があります。その一つにがんを悪化させる可能性があります。また、糖尿病自体、がんをはじめ、様々な疾患と関連しています。
私は乳がんを患っている糖尿病の猫にインスリンを投与すると、おそらく、がんを悪化させると思います。人の論文を調べると、その可能性は十分あり、現場での経験からそれはあるだろうと考えています。
高血糖自体ががんを悪化させる可能性があるので、血糖値をコントロールすればそのリスクは減らせるかもしれませんが、内因性と外因性のインスリンが合わさって、かなりの高インスリン血症になることが、がんを増長させる要因として大きいのではないかと考えています。
それから、糖尿病の治療は、血糖値を上げないことが重要なので、糖質を含まない食事が有効ですが、猫の糖尿病のドライフードには、結構糖質が含まれています。
血糖値を上昇させないのが、糖尿病の治療のポイントですが、糖質を与え、血糖値を上昇させ、それを抑えるために、体はインスリンを分泌し、さらにインスリンを投与するのは、ナンセンスであり疑問があります。
タンパク質にはわずかに、血糖値を上げる作用はありますが、普通、糖質を与えなければ、血糖値はほとんど上昇しません。
猫は肉食動物です。動物性の食事には糖質はほとんど含まれていません。もともと、猫に糖質は不要といえますので、糖尿病の時に糖質はできるだけ、控えた方がよさそうです。ゼロで良いと考えています。そのような食事は、おそらく、糖尿病の予防効果もあるし、がんの予防効果もあると思います。
犬猫の糖尿病で、インスリン注射をする場合、当院では、経験上、腫瘍に罹患する可能性やその増悪についてご家族にお伝えしています。
また、糖尿病になるとがんになりやすくなるので、糖尿病の時は腫瘍がないかどうか、必ずチェックしています。
要するに、インスリン注射によりがんになりやすくなる可能性があると考えていますが、獣医学ではそのようなことは書かれていません。上記の考えは、あくまでも、仮説であり、可能性です。
参考文献
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「インスリンは、一部のヒト乳がん細胞株の増殖を刺激し、腫瘍細胞の移動と浸潤能力を高め、エストロゲンと複雑な相互作用を起こし、エストロゲン依存性乳がんを促進します」
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「炭水化物制限、ケトン食、断続的な断食は、転移性癌患者のインスリンレベルを下げるための安全で実行可能な食事戦略です」
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「転移は、がん患者の主な死亡原因です」
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