ふじみ野市
大井みどり動物病院
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2024/08/17

トラネキサム酸

けいれんするかも
 
 
 

 

 

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。

 
 
 
異物を誤飲した場合、応急措置として、吐かせることがあります。誤飲の直後で、吐かせてよいものであれば、薬剤を使用し、嘔吐を誘発させます。うまくいけば、内視鏡や手術での摘出を回避できるので、非常に有効です。特に腸閉塞を起こすと命に関わります。

 


嘔吐を誘発させる代表的な薬剤として、止血剤のひとつ、「トラネキサム酸」は、静脈内投与すると2分くらいで、多くの犬が吐きます。

 


トラネキサム酸は止血剤で、血をかたまりやすくする作用があり、主に出血を止める場合に使用する薬ですが、本来、吐くことを誘発させる目的で使用する薬でありません。吐くことは、副作用なのです。

 


人では副作用は少ないと考える薬剤ですが、犬の研究報告では、嘔吐を誘発させる場合、100回行うと2回くらい、けいれんを起こしたり、止血障害を起こす可能性があります。

 


一般的な獣医師はこの副作用をあまり考慮していないように思いますが、その副作用を臨床的にどう受けいれるかは、意見が分かれるかもしれません。

 


私は、使用する前、ご家族にその副作用の事実を伝えますが、いままで、拒否した方はおられませんし、副作用の経験は一度もありません。

 


でも、やはり、トラネキサム酸には神経毒性があり、てんかんもちなどの神経疾患では注意が必要です。また、心筋症やクッシング症候群などは、血が固まりやすくなる場合がある、血栓症を起こしやすいよくある疾患であり、その場合の使用には注意が必要でしょう。

 


さらに、免疫介在性溶血性貧血や、腫瘍、感染症、蛋白漏出性腸症なども血栓症を起こすことがありますし、脱水症でも血が固まりやすくなり、血栓症の恐れがあります。

 


結局、ほとんどの病気は、血栓症になりやすくなる可能性があるといっても良いかもしれません。したがって、体調不良や持病のある場合、トラネキサム酸の投与は注意する必要があります。

 


考えてみれば、慢性の病気をもっているようなワンコは誤飲することはほとんどありませんから、現場では、副作用が認められにくいのでしょう。いまのところ、現場では吐かせることを迫られるのは、健康と思われる場合のみです。

 


一方、人で使う量を参照すると、犬に使う量はかなり多いのが、気になります。人では、嘔吐を誘発する可能性は0.5%以下の様ですし、犬が高確率で吐くのは、薬剤が多すぎるからでしょう。人で換算すれば、上限を遥かに超えた量かもしれません。

 


でも、原則、健康であれば、副作用の確率はかなり低く、断然メリットが上回ると判断しています。

 


それから、トラネキサム酸は急性の出血には有効ですので、その場合にも使います。

 


一般的には咽頭炎や皮膚病で使う場合もあり、いろいろな場面で、好んで使う獣医師も珍しくありませんが、当院では使用しません。人でも、風邪の治療として、使用する内科医がいますが、私は使用しないほうがよいという意見です。

 


使用しない理由は、すべての疾患において、トラネキサム酸を使用しないと治らないケースはおそらくゼロであり、たとえ効果が得られても、多少の症状緩和にしかならないと考えるからです。やはり血栓症やけいれんが生じると取り返しのつかない事態に陥る場合が想定されます。

 


医療とは治すことに焦点が当たりやすいですが、まれであっても、大きなリスクの可能性がある場合は、回避することが重要なのです。薬の利点だけをと考えがちですが、利点だけの薬はありません。

 


副作用のない薬はありません。良い作用と悪い作用は比例するといってよいでしょう。自力で治せる疾患は、きつい症状がなければ、医療は不要です。

 


また、健康な場合ほど、医療による生じた副作用は、その度合が大きいほど、心情的に受け入れるのは難しいでしょう。ワクチンとかは特に。

 




参考文献

「副作用は少なく、主に軽度です。使用に伴う血栓性イベントの発生率増加の証拠はありません。活動性血栓塞栓症は禁忌です。米国では、血栓症または血栓塞栓症の病歴、または血栓症または血栓塞栓症の内在的リスクも禁忌と見なされます」
Leminen, H., & Hurskainen, R. (2012). Tranexamic acid for the treatment of heavy menstrual bleeding: efficacy and safety. International Journal of Women's Health, 4, 413 - 421. https://doi.org/10.2147/IJWH.S13840.


「トラネキサム酸の催吐作用と副作用を評価するため、犬の臨床医学における前向き観察研究が行われた。獣医師は、異物を誤って摂取した犬 137 匹にトラネキサム酸 (50 mg/kg、IV) を 1 回投与した。必要に応じて、2 回目 (中央値 50 mg/kg、範囲 20~50 mg/kg、IV) または 3 回目 (中央値 50 mg/kg、範囲 25~50 mg/kg、IV) の投与が行われた。トラネキサム酸は 137 匹中 116 匹 (84.7%) の犬に嘔吐を引き起こした。嘔吐開始までの時間の中央値は 116.5 秒 (範囲、26~370 秒)、嘔吐持続時間の中央値は 151.5 秒 (範囲、30~780 秒)、嘔吐エピソード数の中央値は 2 回 (範囲、1~8 回) でした。トラネキサム酸の 2 回目と 3 回目の投与では、それぞれ 64.7% と 66.7% の犬で嘔吐が誘発されました。全体では、トラネキサム酸の静脈内投与により 137 匹中 129 匹 (94.2%) の犬で嘔吐が誘発されました。副作用には、2 匹の犬での強直間代性けいれんと止血障害が含まれましたが、どちらも治療後に回復しました。トラネキサム酸は、1 回の投与後にほとんどの犬で嘔吐を誘発しました。1 回の投与で十分でなかった場合は、追加投与により効果的に嘔吐が誘発されました」
Orito, K., Kawarai-Shimamura, A., Ogawa, A., & Nakamura, A. (2017). Safety and efficacy of intravenous administration for tranexamic acid-induced emesis in dogs with accidental ingestion of foreign substances. The Journal of Veterinary Medical Science, 79, 1978 - 1982. https://doi.org/10.1292/jvms.17-0463.


「トラネキサム酸は、非心臓手術を受ける患者の複合出血の発生率を著しく低下させますが、プラセボに対する非毒性は不明のままです」
Devereaux, P., Marcucci, M., Painter, T., Conen, D., Lomivorotov, V., Sessler, D., Chan, M., Borges, F., Martínez-Zapata, M., Wang, C., Xavier, D., Ofori, S., Wang, M., Efremov, S., Landoni, G., Kleinlugtenbelt, Y., Szczeklik, W., Schmartz, D., Garg, A., Short, T., Wittmann, M., Meyhoff, C., Amir, M., Torres, D., Patel, A., Duceppe, E., Ruetzler, K., Parlow, J., Tandon, V., Fleischmann, E., Polanczyk, C., Lamy, A., Astrakov, S., Rao, M., Wu, W., Bhatt, K., Nadal, M., Likhvantsev, V., Paniagua, P., Aguado, H., Whitlock, R., McGillion, M., Prystajecky, M., Vincent, J., Eikelboom, J., Copland, I., Balasubramanian, K., Turan, A., Bangdiwala, S., Stillo, D., Gross, P., Cafaro, T., Alfonsi, P., Roshanov, P., Belley‐Cote, E., Spence, J., Richards, T., Vanhelder, T., McIntyre, W., Guyatt, G., Yusuf, S., & Leslie, K. (2022). Tranexamic Acid in Patients Undergoing Noncardiac Surgery.. The New England journal of medicine. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2201171.

 
 


 


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