ふじみ野市
大井みどり動物病院
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2024/11/02

ちくしょうV

栄養性と特発性と食事
 
 
 
 

 

 

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。

 
 

獣医学において、神経疾患の分類法として、「DAMNIT - V」があります。

 


D 変性性疾患
A 解剖学的疾患
M 代謝性疾患
N 腫瘍性疾患 栄養性疾患
I 特発性疾患、免疫疾患、炎症性疾患
T 外傷性疾患、中毒性疾患
V 血管性疾患

 


のうように、頭文字をとり、語呂合わせで覚えます。

 


DAMNIT とは、英語で、ちくしょう、という意味ですから、日本語で言うなら「ちくしょうV」と、アメリカ人は覚えているようです。

 


この分類法は意外に役に立ち、診断を進める上で、道標になり、有効です。まず、大雑把に分類することで、大きな誤診を防ぐ役割があります。あるいは、盲点を失くす作用もあります。

 


神経疾患の分類法ですが、他のすべての病気の診断でも役立ちます。

 


また、若齢では、AやTが多く、中年ではIが多く、高齢では、NやVが多く、ある程度年齢による傾向があるので、年齢を加味すると更に有効な診断につながります。

 


ちくしょうVの中で、診断しにくいのは栄養性疾患でしょう。

 


完全総合栄養食が普及し、くる病などの、明らかな栄養性疾患は減少しましたが、現代において、どれくらい、栄養性疾患があるかはよくわかっていない思います。

 


おそらく、多くの獣医師は食事が直接的な原因の栄養性疾患を診断したことがほとんどないと思いますし、栄養疾患を普通は考えていません。

 


ところで、色々検査した結果、原因が究明されない場合、「特発性」と診断名の頭につけることがあります。

 


例えば、特発性てんかん、特発性膀胱炎、特発性腸炎、特発性血小板減少症、特発性前庭障害などがあります。

 


これら特発性の病気は、食事が関連している可能性があります。一応、栄養性で起こる理屈や仮説を考えることはできますが、それを調べ、関連性を証明するのは、非常に難しいでしょう。

 


おやつばっかり、肉ばっかりの食事はそのリスクがありますが、ドッグフードも意外と完全総合栄養食と、謳っていながら、不完全な場合があるし、ペットフードのメイラード反応生成物は、体が異物と認識し、炎症反応が生じる可能性もあります。その結果、ある種の病気の発症に関連しているかもしれません。

 


ある栄養素の摂取過剰や摂取不足が単一で生じるだけの単純なものもありますが、他の疾患からある特定の栄養素の消耗や消化吸収不全から不足したりする場合もあります。

 


また、ペットフードの微生物学的問題はあるし、保証されている栄養素の量の過不足の可能性、アフラトキシン汚染の危険性の研究報告もあります。メラミン混入の大問題もありました。完全総合栄養食も、不完全なことがあります。

 


メラミンは重い腎不全を起こし、アフラトキシンは猛毒で、がんを起こすことがあります。人と比べ、犬はがんが多いですが、アフラトキシンの影響があるかもしれません。特に肝臓がんとの関連はあるかもしれませんが、おそらくがん専門医もあまり考慮していないでしょう。

 


食事と病気に関連性があることに議論の余地はありませんが、今の獣医学では研究が不十分な分野です。

 


「医は食にあり」というように、食生活は健康と関わりが密接にあります。また、ヒポクラテスは「食べ物で治せない病気は、医者でも治せない」と言いました。

 


DAMNIT - Vの中で、外傷性以外は、すべて食と絡んでいる可能性があると考えています。

 


適切な食べ物で、多くの慢性疾患が軽減する可能性は十分あります。そのひとつの鍵は「マイクロバイオーム」だと思います。

 


「栄養学は、医学の基礎であり、全ての病気の治療において考慮すべき重要な要素である」と言えるでしょう。

 


しかし、残念ながら、食事と病気の関連性は、犬猫ではよくわかっていませんし、栄養学は、獣医学の学問の中では、注目されていないように思います。

 
 
 
また、ペットフードの負の情報は、あまり犬猫の獣医学のジャーナルには掲載されていない傾向があるのが興味深いです。
 
 
まあ、とにかく、食事は大切であり、栄養性疾患はいろいろ難しいと感じています。
 



参考文献

 

「DAMNIT - Vは疾患分類法であり、神経疾患の診断に有用である。変性疾患(D)、異常疾患(A)、代謝性疾患(M)、腫瘍性疾患(N)、炎症性(感染性/免疫介在性)疾患(I)、特発性疾患(I)、外傷性疾患(T)、血管性疾患(V)に分類され ます[ 3、4、13 ]」
Nakamoto Y, Uemura T, Hasegawa H, Nakamoto M, Ozawa T. Feline neurological diseases in a veterinary neurology referral hospital population in Japan. J Vet Med Sci. 2019 Jun 21;81(6):879-885. doi: 10.1292/jvms.18-0447. Epub 2019 Apr 30. PMID: 31061248; PMCID: PMC6612503.

「ペットフードの栄養成分は、消化管微生物叢の変化を通じて、犬の胃腸疾患、アレルギー、口腔衛生、体重管理、糖尿病、腎臓病に影響を与えます」
Wernimont, S., Radosevich, J., Jackson, M., Ephraim, E., Badri, D., MacLeay, J., Jewell, D., & Suchodolski, J. (2020). The Effects of Nutrition on the Gastrointestinal Microbiome of Cats and Dogs: Impact on Health and Disease. Frontiers in Microbiology, 11. https://doi.org/10.3389/fmicb.2020.01266.

「シニア犬の場合、バランスの取れた食事は栄養価の高いタンパク質と少量の炭水化物で構成され、多量の脂肪やナトリウム、カリウム、リンの少ない食品はむしろ必要があります」
Stratone, R. (2023). FOOD MARKERS OF THE CANINE NUTRITION SYSTEM. CURRENT TRENDS IN NATURAL SCIENCES. https://doi.org/10.47068/ctns.2023.v12i23.029.


「この研究では、ブラジルの市販ドッグフードに含まれるアフラトキシンB1を調査し、多くのサンプルからアフラトキシン産生菌であるアスペルギルス属が確認されましたが、推奨レベル(20 ng/g)を超えるサンプルはありませんでした」 (Campos et al., 2009)


「50匹の犬がアフラトキシン汚染されたドッグフードの摂取により重度の肝障害を起こし、多くが死亡した事例を報告しています。検査により、アフラトキシンB1の高濃度汚染が確認されました 」(Bruchim et al., 2012)


「近年、ペットの犬の栄養代謝疾患が増加しており、治療にはより一層の注意と高度な診断方法が必要となっています」
Meng-yao, G. (2010). Nutrition Metabolic Diseases of Pet Dogs. Chinese Journal of Comparative Medicine.

「食事の組成は糞便中の微生物叢の組成に影響を及ぼし、クロストリジウム科、エリシペロトリク科、バクテロイデス科などの特定の微生物分類群は犬のタンパク質と脂肪の消化率と相関関係があります」
Bermingham, E., Maclean, P., Thomas, D., Cave, N., & Young, W. (2017). Key bacterial families (Clostridiaceae, Erysipelotrichaceae and Bacteroidaceae) are related to the digestion of protein and energy in dogs. PeerJ, 5. https://doi.org/10.7717/peerj.3019.


「アフラトキシンは特に発展途上国において深刻な健康リスクをもたらし、慢性的な曝露は肝臓がんの原因とされています。約4.5億人がアフラトキシンの健康被害を受けており、栄養と免疫に悪影響を及ぼしています」 (Williams et al., 2004)

「アフラトキシンB1およびその代謝物M1は、DNA付加体形成を通じてがんを引き起こすことが確認されており、特に肝臓がんの発症に寄与しています 」(Marchese et al., 2018)


「アフラトキシン曝露は、肝臓がんだけでなく胆嚢がんのリスクも増加させる可能性が示されています。特に、胆嚢がん患者はアフラトキシンB1の血中濃度が高いことが確認されています」 (Koshiol et al., 2017)


「ペットフードの栄養成分は、消化管微生物叢の変化を通じて、犬の胃腸疾患、アレルギー、口腔衛生、体重管理、糖尿病、腎臓病に影響を与えます」
Wernimont, S., Radosevich, J., Jackson, M., Ephraim, E., Badri, D., MacLeay, J., Jewell, D., & Suchodolski, J. (2020). The Effects of Nutrition on the Gastrointestinal Microbiome of Cats and Dogs: Impact on Health and Disease. Frontiers in Microbiology, 11. https://doi.org/10.3389/fmicb.2020.01266.


「このレビュー研究では、市販の犬用ドライフード(CDF)にアスペルギルス フラバスとそのアフラトキシン(AF)が広範囲に存在することを強調しています。」
Martínez-Martínez, L., Valdivia-Flores, A., Guerrero-Barrera, A., Quezada-Tristán, T., Rangel-Muñoz, E., & Ortíz-Martínez, R. (2021). Toxic Effect of Aflatoxins in Dogs Fed Contaminated Commercial Dry Feed: A Review. Toxins, 13. https://doi.org/10.3390/toxins13010065.



「ドッグフードに含まれるアフラトキシンは、肝不全や急性または慢性肝疾患の典型的な症状を引き起こす可能性があります。」
Newman, S., Smith, J., Stenske, K., Newman, L., Dunlap, J., Imerman, P., & Kirk, C. (2007). Aflatoxicosis in Nine Dogs after Exposure to Contaminated Commercial Dog Food. Journal of Veterinary Diagnostic Investigation, 19, 168 - 175. https://doi.org/10.1177/104063870701900205.


「検査されたドライドッグフードの 60% は栄養ガイドラインの推奨事項を少なくとも 1 つ満たしておらず、4 つは Fe の法定制限を超え、5 つは Zn の法定制限を超えていました。」
Kazimierska, K., Biel, W., & Witkowicz, R. (2020). Mineral Composition of Cereal and Cereal-Free Dry Dog Foods versus Nutritional Guidelines. Molecules, 25. https://doi.org/10.3390/molecules25215173.


「ドライドッグフードには、Se を除く必須元素が過剰に供給されており、Cu、Se、Zn を除くすべての微量元素は成犬の栄養所要量を超えて供給されています。」
Pereira, A., Pinto, E., Matos, E., Castanheira, F., Almeida, A., Baptista, C., Segundo, M., Fonseca, A., & Cabrita, A. (2018). Mineral Composition of Dry Dog Foods: Impact on Nutrition and Potential Toxicity.. Journal of agricultural and food chemistry, 66 29, 7822-7830 . https://doi.org/10.1021/acs.jafc.8b02552.


「メラミンとシアヌル酸による違法なペットフードの混入により、猫や犬の腎臓が損傷し、死亡する事態が起きた」
Dorne, J., Doerge, D., Vandenbroeck, M., Fink-Gremmels, J., Mennes, W., Knutsen, H., Vernazza, F., Castle, L., Edler, L., & Benford, D. (2013). Recent advances in the risk assessment of melamine and cyanuric acid in animal feed.. Toxicology and applied pharmacology, 270 3, 218-29 . https://doi.org/10.1016/j.taap.2012.01.012.


「ドライペットフードやおやつはサルモネラ菌の発生と関連付けられており、ペットとその飼い主の両方が病原菌にさらされる可能性があるという懸念が生じている。」
Lambertini, E., Buchanan, R., Narrod, C., & Pradhan, A. (2016). Transmission of Bacterial Zoonotic Pathogens between Pets and Humans: The Role of Pet Food. Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 56, 364 - 418. https://doi.org/10.1080/10408398.2014.902356.


「サウスカロライナ州ガストンの工場で生産されたドライドッグフードが、サルモネラ・エンテリカ血清型インファンティスによる犬と人間の病気と関連していた」
Imanishi, M., Rotstein, D., Reimschuessel, R., Schwensohn, C., Woody, D., Davis, S., Hunt, A., Arends, K., Achen, M., Cui, J., Zhang, Y., Denny, L., Phan, Q., Joseph, L., Tuite, C., Tataryn, J., & Behravesh, C. (2014). Outbreak of Salmonella enterica serotype Infantis infection in humans linked to dry dog food in the United States and Canada, 2012.. Journal of the American Veterinary Medical Association, 244 5, 545-53 . https://doi.org/10.2460/javma.244.5.545.


「メイラード反応は多くの食品の味、香り、色に寄与していますが、食物アレルギーを含む食事や炎症に関連する非感染性疾患の増加にも関連していることが分かっています」
Teodorowicz, M., Neerven, J., & Savelkoul, H. (2017). Food Processing: The Influence of the Maillard Reaction on Immunogenicity and Allergenicity of Food Proteins. Nutrients, 9. https://doi.org/10.3390/nu9080835.


「メイラード反応はペットフード中のリジンなどの必須アミノ酸の生物学的利用能を低下させ、栄養価に影響を与え、健康上の問題を引き起こす可能性があります。」
Rooijen, C., Bosch, G., Poel, A., Wierenga, P., Alexander, L., & Hendriks, W. (2013). The Maillard reaction and pet food processing: effects on nutritive value and pet health. Nutrition Research Reviews, 26, 130 - 148. https://doi.org/10.1017/S0954422413000103.

 


 


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