2024/11/15
ピットブルの手術
ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
犬の前十字靭帯断裂の手術には、主にTPLOとLSSという2つの方法があります。TPLOは、脛骨の高平部を切断し、角度を変えることで膝関節の安定性を高める手術です。一方、LSSは、膝の外側に糸を通し、関節の安定性を図る手術です。
一般的に、TPLOは大型犬や活動的な犬に適しており、長期的な安定性が期待できます。一方、LSSは小型犬や中等度の症例に適していますが、大型犬や高活動量の犬では、糸が切れるリスクや再断裂のリスクが高まる可能性があります。
今回、当院で手術したのは、35kgのピットブルという大型犬で、体重も重く、活動量も高いということもあり、LSSは通常、適応外の手術となります。しかも肥満犬です。本来は高度医療施設でのTPLOをするのが最良です。(当院でTPLOを行っておらず、LSSは対応しています)
LSSは、膝関節の安定性を糸で保つため、強い力がかかると糸が切れてしまい、手術の効果が得られない可能性があります。特に、ピットブルのような筋肉質な犬種は、関節にかかる負荷が大きい傾向があり、LSSの成功率がさらに低くなる可能性があります。
しかし、飼い主様はTPLOのための高度医療施設の受診を希望されず、長年のお付き合いを考慮し、当院でLSSを実施することといたしましたが、普通のLSSでは、うまくいかないかもしれません。
通常、LSS手術後にはギプス固定は行いませんが、今回の症例では、手術の成功率を高めるために、術後にギプス固定を行うという、やや特殊な方法を選択しました。これは、LSSが大型犬に適さないというリスクを補うため、術後の関節の安定性を高めることを目的としたものです。また、ピットブルのような筋肉質な犬種は、術後の関節の動きが大きくなりやすく、ギプス固定によって過度の動きを抑制することで、関節への負担を軽減する効果も期待できます。
この術後のギプス固定は、一般的な方法ではありませんが、私の臨床経験上、膝関節の安定性を保つためには効果的であると考えています。
LSSの治癒原理は、膝関節の脇に糸をかけ、ももとすねの骨の位置を適した位置で安定化させ、その後自然に起こる関節内や縫合糸の周囲の線維化を利用し、継続的な安定化を得るというものです。糸はしばらくするとゆるむので、恒久的な靭帯の代わりにはなりません。どんな手術方法でも切れた靭帯はつなげることはできません。線維化で安定化させるには、しばらくの間ギプス固定が有効であると考えます。よって、治癒原理を考えれば、一般的な小型犬においても、LSSのあとにはギプス固定は適しているかもしれません。
手術は無事に終了し、一ヶ月ほどギプス固定を行った結果、順調に回復しました。
このように、標準的な治療法から外れるケースも、獣医療の現場では少なくありません。獣医師は、個々の患者様の状態や飼い主様のご希望を考慮し、最善の治療法を選択する必要があります。
今回のケースのように、標準的な治療法とは異なる方法を試すことで、良好な結果が得られる場合もあります。
ちなみに今回の方法を整形外科の専門医に質問しましたが、肯定も否定もされず、核心のあるお返事はいただけませんでした。おそらく、理論は間違っていないが、そのご経験がないからだと想像しています。
臨床現場では、イレギュラーな方法を採用することを迫れる場合がしばしばあります。治療を拒否することもできますが、臨床現場では、そう単純にはいきません。治療原理の本質を理解していると、既存の治療を組み合わせることで、本来対応が難しい疾患でもよい結果に導くことができることがあります。
それから高齢で、手術が不可能なアメリカンコッカーの両側の前十字靭帯を手術をせず、両足のギプス固定のみで、治療し、よい結果に導いた経験があります。このケースはほとんどの獣医師で経験がないと思われます。
もしかしたら、犬の前十字靭帯断裂は、ギプス固定のみで、治せる可能性があるかもしれませんが、それは非常識であり、現在の獣医学では否定されます。でも、当院では同様なケースではギプス固定をご提示します。
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