2024/12/21
メラノーマとアドバースアウトカム
ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
メラノーマは悪性度の高い腫瘍であり、人では腫瘍細胞が比較的早期にリンパ節や遠隔臓器へ転移する可能性が高いとされています。研究によれば、原発腫瘍の発症初期にすでに腫瘍細胞が体内に拡散していることが示されており (Eyles et al., 2010)、この事実が「早期発見」が必ずしも死亡率の低下につながらないことの要因の一つと考えられます (日本皮膚科学会, 2016)。
「メラノーマは比較的早期に腫瘍細胞がリンパ節や遠隔臓器に播種する可能性が高い腫瘍であり、検診による早期発見が死亡数の減少にはつながっていない.原発腫瘍の切除は多くの患者を救命する一方、負の側面として播種したメラノーマ細胞の休眠状態を解除する可能性がある.センチネルリンパ節生検の成績に基づくリンパ節廓清は現時点で予後の改善に寄与するという十分な証拠は得られていない.将来的には,手術に加えてシグナル阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬などの全身的治療を如何に有効に併用するかが課題となろう.」(日本皮膚科学会, 2016)は非常にメラノーマの治療の難しさを端的に表しています。
がん細胞は原発腫瘍から早期に離脱し、血流やリンパ管を通じて他の臓器へ移動することがあります。これらの転移細胞は、臨床的に検出される前にすでに存在していることがあり、長期間休眠状態となることも報告されています (Klein, 2020)。休眠状態の転移細胞は、何らかの刺激によって再び増殖を開始する可能性があるため、がんの進行や再発が後から認識されることがあります (Hawes et al., 2001)。
原発腫瘍の切除手術は局所病変の制御を目的としていますが、その一方で、手術による外科的ストレスや出血、免疫抑制が腫瘍微小環境を変化させ、休眠していた転移細胞を再活性化させるリスクが示唆されています (Jin et al., 2024), (Onuma et al., 2020), (Hiller et al., 2018)。そのため、手術が予後を改善するかどうかはケースバイケースであり、状況に応じて慎重な判断が求められます。
犬や猫のメラノーマも人間と同様に進行が速く、特に口腔内や爪床部に発生しやすいことが知られています。獣医学において手術が第一選択とされることが多いものの、転移が早期に進行する性質を考えると、治療の効果には限界がある場合があります。さらに、動物におけるがん治療は副作用や体力的負担が大きく、生活の質(QOL)を低下させることも少なくありません。
そのため、無理に積極的な治療を行うよりも、経過観察や緩和ケアを選択し、痛みの管理や日常生活の質を維持することが、動物にとって最善の選択肢となる場合があります。治療の目的や方向性は、ご家族や獣医師が十分に話し合い、動物の状態に合わせて決定することが重要です。犬猫のへの副作用が大きな積極的な治療は倫理的に問題を孕んでいます。
メラノーマは転移が非常に早期に進行するため、積極的な治療が必ずしも予後の改善につながるとは限りません。人と比較すると、治療法が限られ、医療体制が不十分である背景から、過度な治療を避けて経過観察や緩和ケアを選択することは十分に合理的な判断です。生活の質を最優先に考え、残された時間を穏やかにご家族と一緒に過ごせるよう支えることが、治療方針として重要と考えられます。
よって、当院ではメラノーマに対しての治療、特に手術や化学療法に対しては積極的ではなく、経過観察や対症療法をすることが多いですが、同時にがんセンターなどの医療施設への受診もご提示しています。
所属リンパ節の切除も効果はないかも知れませんし、転移防止のための関所になっているとの考えも再考が必要かも知れません。
簡潔的に言えば、人でさえ早期発見しても死亡率の低下が認められてないため、犬猫では生存率を上昇させる有効な治療は難しいのではないかと考えています。積極的な手術が逆に転移を進行させている可能性もあります。この様な望ましくない医療効果を「アドバースアウトカム」といいます。がん治療はアドバースアウトカムが出現しやすいといえます。
参考文献
ここでは、黒色腫の自発的なマウスモデルを使用して、腫瘍細胞の拡散と転移性外生の免疫制御を調査しました。腫瘍細胞は、原発腫瘍の発症の初期に、臨床的に検出される前であっても、体中に拡散することが判明しました。
Eyles, J., Puaux, A., Wang, X., Toh, B., Prakash, C., Hong, M., Tan, T., Zheng, L., Ong, L., Jin, Y., Kato, M., Prévost-Blondel, A., Chow, P., Yang, H., & Abastado, J. (2010). Tumor cells disseminate early, but immunosurveillance limits metastatic outgrowth, in a mouse model of melanoma.. The Journal of clinical investigation, 120 6, 2030-9 . https://doi.org/10.1172/JCI4200
がんの進行中、転移細胞は早期に離脱し、他の部位に移動することが示されています。乳がんのデータでは、転移が原発腫瘍検出前に始まる場合があると報告されています (Engel et al., 2003)
一部のがんでは、転移細胞が非常に早期に分散し、他の臓器や血流中に存在することが確認されています。がんの進行と「見えない」転移の存在は、患者の予後や治療方針に影響を与える可能性があります (Klein, 2020)
がん細胞は原発腫瘍から分離し、早期に遠隔部位へ到達した後、長期間休眠状態になることがあります。これにより、臨床的検出が遅れる場合があります (Hawes et al., 2001)
乳がんの数学モデルによると、がんの臨床検出前に転移細胞が血流に流出し始めることが予測されています (Coumans et al., 2013)
術中の出血、外科的外傷、術後の免疫抑制状態は、術中出血と周術期免疫療法を減少させることで、腫瘍の増殖と再発に寄与します。
Jin, X., Han, H., & Liang, Q. (2024). Effects of surgical trauma and intraoperative blood loss on tumour progression. Frontiers in Oncology, 14. https://doi.org/10.3389/fonc.2024.1412367.
外科的ストレスは、自然免疫系と適応免疫系の主要成分を活性化し、微小転移の成長を加速し、腫瘍の免疫微小環境を調整することで、腫瘍の進行を促進する可能性があります。
Onuma, A., Zhang, H., Gil, L., Huang, H., & Tsung, A. (2020). Surgical Stress Promotes Tumor Progression: A Focus on the Impact of the Immune Response. Journal of Clinical Medicine, 9. https://doi.org/10.3390/jcm9124096.
手術ストレス反応や麻酔薬の影響などの周術期の出来事は、癌の再発や転移性疾患の進行を促進する可能性があります。
Hiller, J., Perry, N., Poulogiannis, G., Riedel, B., & Sloan, E. (2018). Perioperative events influence cancer recurrence risk after surgery. Nature Reviews Clinical Oncology, 15, 205-218. https://doi.org/10.1038/nrclinonc.2017.194.
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