ふじみ野市
大井みどり動物病院
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10時〜

2024/12/27

口の中のメラノーマ疑いをどうするか

当院の考え
 
 
 
 

 

 

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。

 
 

14歳のポメラニアンさんが口腔内の黒いしこりを心配して受診しました。このワンコは子犬時代からずっと当院で診察を受けていました。そのしこりは見た目からメラノーマの可能性が非常に高いと判断しました。メラノーマは悪性腫瘍の一種であり、早期に転移する場合がある腫瘍です。

 


現在、非常に元気で活発であり、生活の質(QoL)は良好です。血液検査や画像検査(エコーおよびレントゲン)を行ったところ、腎機能の軽度な低下(尿比重の低下と腎機能指標の上昇)が認められましたが、それ以外に明らかな異常や転移の兆候は見られませんでした。

 


しこりに針を刺す、細胞検査は実施しませんでした。これは、がん細胞が周囲に播種するリスクを完全に排除するためと、細胞診を行っても治療方針が大きく変わらない可能性が高いと考えたためです。

 


検査結果を基に、飼い主には次のような説明を行いました。現在の検査結果から、転移が検出される可能性は低いと考えられますが、検査で検出できないごくわずかな転移や休眠状態の転移細胞が存在している可能性は否定できません。がん死の多くは転移による臓器不全が原因であるため、延命を目指す場合には転移の防止が重要です。手術はしこりを切除し、今後の転移を防ぐことを主な目的としていますが、既に転移が存在している場合、手術のメリットは限定的です。

 


また、手術や麻酔にはリスクも伴います。具体的には、腎機能に負担をかける可能性や、潜在的な転移細胞を刺激して進行を早めるリスクが考えられます。さらに、顎の一部を切除する手術は生活の質に影響を及ぼす可能性があり、犬自身にはその意義を理解することができません。一方で、しこりを放置すると今後大きくなることで出血や採食の困難を引き起こす可能性があります。その場合、治療はより困難になることも考えられます。現段階では、生活の質を維持しながら経過観察を行う選択肢は合理的であると説明しました。

 


人の文献によれば、メラノーマは初期段階で転移が見られない場合でも、検査で検出できない微小な転移や休眠状態の腫瘍細胞が存在することが示唆されています。また、人の医療においても、メラノーマの切除手術が予後に与える影響は一部で議論が分かれており、腫瘍切除が転移を促進する可能性についても報告があります。この点を踏まえ、メラノーマに対する治療が必ずしも延命に繋がらないケースがあることを飼い主に説明しました。

 


仮に積極的ながん治療や放射線治療をご希望の場合には、高度医療施設をご紹介できることもお伝えしました。私は、自分の愛犬で同じ状況が起きた場合、現在の生活の質が問題なければ手術や積極的な治療は行わず、経過観察を選択すると思います。しかし、一般的な獣医学の方針としては、細胞診を行ったうえで転移が認められなければ手術を推奨するのが一般的です。

 


飼い主の理解を得て、現在は経過観察を選択しています。それから11ヶ月が経過しましたが、元気いっぱいで食事をするのにも不自由はありません。しこりは少し大きくなったものの、積極的な治療をしなかったことが結果的に良かったのではないかと考えています。しかし、医学的に見てこの選択が最善であったかは断定できません。

 


恐らくメラノーマの中でも悪性度が低く転移しにくい部類であり、一般的に手術により完治したメラノーマはこのようなタイプのものなのかもしれません。

 


獣医師にはさまざまな治療方針があり、ご家族が満足される選択を提供することが最も重要だと考えています。今回、その点に関しては目的が達成できたことを嬉しく思っています。

 
 



参考文献

ここでは、黒色腫の自発的なマウスモデルを使用して、腫瘍細胞の拡散と転移性外生の免疫制御を調査しました。腫瘍細胞は、原発腫瘍の発症の初期に、臨床的に検出される前であっても、体中に拡散することが判明しました。
Eyles, J., Puaux, A., Wang, X., Toh, B., Prakash, C., Hong, M., Tan, T., Zheng, L., Ong, L., Jin, Y., Kato, M., Prévost-Blondel, A., Chow, P., Yang, H., & Abastado, J. (2010). Tumor cells disseminate early, but immunosurveillance limits metastatic outgrowth, in a mouse model of melanoma.. The Journal of clinical investigation, 120 6, 2030-9 . https://doi.org/10.1172/JCI4200

がんの進行中、転移細胞は早期に離脱し、他の部位に移動することが示されています。乳がんのデータでは、転移が原発腫瘍検出前に始まる場合があると報告されています (Engel et al., 2003)

一部のがんでは、転移細胞が非常に早期に分散し、他の臓器や血流中に存在することが確認されています。がんの進行と「見えない」転移の存在は、患者の予後や治療方針に影響を与える可能性があります (Klein, 2020)

がん細胞は原発腫瘍から分離し、早期に遠隔部位へ到達した後、長期間休眠状態になることがあります。これにより、臨床的検出が遅れる場合があります (Hawes et al., 2001)

乳がんの数学モデルによると、がんの臨床検出前に転移細胞が血流に流出し始めることが予測されています (Coumans et al., 2013)

術中の出血、外科的外傷、術後の免疫抑制状態は、術中出血と周術期免疫療法を減少させることで、腫瘍の増殖と再発に寄与します。
Jin, X., Han, H., & Liang, Q. (2024). Effects of surgical trauma and intraoperative blood loss on tumour progression. Frontiers in Oncology, 14. https://doi.org/10.3389/fonc.2024.1412367.

外科的ストレスは、自然免疫系と適応免疫系の主要成分を活性化し、微小転移の成長を加速し、腫瘍の免疫微小環境を調整することで、腫瘍の進行を促進する可能性があります。
Onuma, A., Zhang, H., Gil, L., Huang, H., & Tsung, A. (2020). Surgical Stress Promotes Tumor Progression: A Focus on the Impact of the Immune Response. Journal of Clinical Medicine, 9. https://doi.org/10.3390/jcm9124096.

手術ストレス反応や麻酔薬の影響などの周術期の出来事は、癌の再発や転移性疾患の進行を促進する可能性があります。
Hiller, J., Perry, N., Poulogiannis, G., Riedel, B., & Sloan, E. (2018). Perioperative events influence cancer recurrence risk after surgery. Nature Reviews Clinical Oncology, 15, 205-218. https://doi.org/10.1038/nrclinonc.2017.194.

 
 
 
 


 


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