2025/01/12
サルコペニック肥満
ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
猫は完全な肉食動物(オブリゲート・カーニボア)であり、健康を維持するために多量のタンパク質を必要とします。このため、タンパク質の不足は体調不良や病気のリスクを引き起こす可能性があり、その最低摂取量がガイドラインとして定められています。
AAFCO(米国飼料検査官協会)とNRC(米国科学アカデミー・栄養要件委員会)は、維持期の成猫に必要な最低タンパク質摂取量として、それぞれ約3.25〜3.9 g/ kg/日と2.5および3.13 g/kgを推奨しています。この基準は健康維持に必要な最低限の量とされていますが、筋肉量を維持したり、理想的な健康状態を達成するには、この量を超える摂取が求められる可能性があります。
例えば、Laflamme & Hannah(2013)の研究では、筋肉量の維持には5.2g/kg/日のタンパク質摂取が必要であるとされています。また、野生の猫は主に小型の哺乳類や鳥類を捕食しており、約25g/ kg/日のタンパク質を摂取していることが報告されています(Plantinga et al., 2011)。しかし、飼育猫の活動量は野生猫の半分程度と推定されるため、飼育猫に必要なタンパク質量はこれよりも低い、約12g/kg/日と考えられます。
飼育猫が鳥のもも肉(皮付き)を摂取した場合、体重3kgの猫に必要なカロリー(約200kcal)で得られるタンパク質量は7g/kg/日程度となります。このことから、飼育猫における最適なタンパク質摂取量は、5.2〜12g/kg/日の範囲が妥当である可能性が高いと考えられます。
ウサギなどの小型哺乳類、高タンパク質の小型爬虫類や昆虫類などのの獲物全体のタンパク質量から計算すると、猫にとって理想的な摂取量は約8から9g/kg/日となるとの推測もできます。しかし、市販のペットフードでは、この値を満たすのは難しい場合が多いでしょう。
タンパク質不足は、猫の健康に多大な影響を及ぼす可能性があります。例えば、猫の脂肪肝はタンパク質不足が関与すると考えられており、また、筋肉量の減少、免疫機能の低下、皮膚や被毛の健康状態の悪化も引き起こす可能性があります。
したがって、AAFCOやNRCの基準は健康維持の最低量を示しているにすぎず、理想的なタンパク質摂取量はこれを上回る、5.2〜12g/kg/日の間にあると推測されます。猫の健康を最適に保つためには、活動量や体重、年齢などを考慮し、十分なタンパク質量を含む食事を提供することが重要です。
野生の猫の食性や完全な肉食動物だという事実を考えれば、猫のタンパク質の栄養基準はホットスポットは8から10g/kg/日くらいではないかと予想しています。
その量はAAFCOやNRCの基準の2から3倍以上になります。したがって、最低限の量とはいえ、AAFCOやNRCのタンパク質量の基準は見直しが必要かも知れません。
ドライフードでそのタンパク量を含ませるのは難しいですが、なるべくタンパク質の多いものを選ぶのが良いかもしれません。高タンパクは腎臓に負担をかけるとよく聞きますが、それらの事実から多くの飼い猫はタンパク質をもっと摂取した方が良いのかもしれません。更に、タンパク質摂取を増やすことはダイエットに有効かもしれません。
AAFCOが何を基準にそのタンパク質量を決定したのかは不明確です。他の栄養素に関しても同様で、その根拠が不明確にもかかわらず、多くの栄養学者が参考にしているのが解せません。AAFCOは非営利団体として、ペットフード業界における重要な役割を担っていますが、業界との関係性や基準策定の過程から利益相反の可能性を完全に排除しているとは言えません。そのため、AAFCOが設定する基準や勧告を評価する際には、独立した科学的根拠や他の情報源と併せて検討することが重要です。
この辺りについては、議論がありますが、猫は厳格な肉食動物ですから、最もタンパク質を必要とする動物の一種なのは間違いありません。
筋肉の少ない状態を人では「サルコペニア」と言いますが、犬猫ではそう呼ばず、「マッスルスコア」というので筋肉量を評価します。肥満で筋肉が少ない状態を示す用語は犬猫ではありませんが、人では「サルコペニック肥満」と言います。
日頃、臨床現場では、犬猫の「サルコペニック肥満」 が多いと感じていますが、運動不足のほか、摂取すべきタンパク質の不足が一因かもしれません。サルコペニック肥満だとインスリン抵抗性が増加し、代謝性疾患など、さまざまな病気になりやすくなるでしょう。
参考文献
成猫の1日の最小タンパク質必要量は、体重1kgあたり少なくとも5.2g(7.8g/kg0.75)で、現在のAAFCOおよびNRCの推奨値を大幅に上回っています。
Laflamme, D., & Hannah, S. (2013). Discrepancy between use of lean body mass or nitrogen balance to determine protein requirements for adult cats. Journal of Feline Medicine and Surgery, 15, 691 - 697. https://doi.org/10.1177/1098612X12474448.
猫は、高タンパク質/低炭水化物の食事を選択した場合、体重 1 kg あたり 1 日あたり約 6 g のタンパク質の最大摂取量を維持できます。
Salaun, F., Blanchard, G., Paih, L., Roberti, F., & Niceron, C. (2017). Impact of macronutrient composition and palatability in wet diets on food selection in cats. Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition, 101, 320–328. https://doi.org/10.1111/jpn.12542.
HPダイエットグループではエネルギー消費が増加し、エネルギー摂取が制限されている場合、HPのこの効果は体重減少を促進するのに役立つ可能性があります。
Wei A, Fascetti AJ, Liu KJ, Villaverde C, Green AS, Manzanilla EG, Havel PJ, Ramsey JJ. Influence of a high-protein diet on energy balance in obese cats allowed ad libitum access to food. J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2011 Jun;95(3):359-67. doi: 10.1111/j.1439-0396.2010.01062.x. Epub 2010 Oct 29. PMID: 21039925.
成猫用フードのタンパク質に対するAAFCOによる現在の推奨は、食事の乾燥物質の26%または6.5 gタンパク質/100 kcal MEです。15 成猫の平均カロリー摂取量が50〜60 kcal ME/ kg体重であると仮定すると、これは約3.25〜3.9 gタンパク質/ kg体重に相当します。国立研究評議会(NRC)のガイドラインは、毎日の最小タンパク質要件と推奨される1日のタンパク質許容量をそれぞれ2.5および3.13 g/kg体重に示しています。14 現在の研究の結果は、窒素バランスを維持するためには1.5 g/kg(2.1 g/kg0.75)の1日のタンパク質摂取が十分であるべきであることを示していますが、LBMを維持するためには平均5.2 g/kg(7.8 g/kg0.75)が必要でした。34%のタンパク質(HI:9.5 gタンパク質/100 kcal ME)の食事を摂取するほとんどの猫はLBMを維持しましたが、20%または26%のタンパク質(LOとMOD:それぞれ5.6 gと7.3 gのタンパク質/100 kcal ME)を摂取するほとんどの猫はLBMを失いました。したがって、現在のAAFCOとNRCの推奨事項は、窒素バランスをサポートするには十分かもしれませんが、タンパク質のターンオーバーとLBMをサポートするには不十分であるようです。
米国飼料管理官協会(AAFCO)による成猫用飼料中のタンパク質に対する現在の推奨は、食事中の乾燥物質の26%または6.5 gタンパク質/100 kcal代謝可能エネルギー(ME)です。 しかし、この勧告に到達するために使用される基準は不明確です。
Laflamme DP, Hannah SS. Discrepancy between use of lean body mass or nitrogen balance to determine protein requirements for adult cats. J Feline Med Surg. 2013 Aug;15(8):691-7. doi: 10.1177/1098612X12474448. Epub 2013 Jan 29. PMID: 23362342; PMCID: PMC11191704.
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