ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 
 

去勢や避妊手術後、犬の体重が増加しやすくなるのは、ホルモンや代謝の変化が深く関与しています。
 


例えば、手術後、減少するホルモンには、オスの場合はテストステロン、メスの場合はエストロゲンがあります。
 


テストステロンは筋肉量の維持や脂肪分解を促進する働きを持つため、その減少により筋肉量が減少し、基礎代謝量が低下します。この結果、脂肪が蓄積しやすくなります。また、脂肪分解も抑制されるので、体脂肪が増加しやすくなります。
 


一方、エストロゲンが低下すると白色脂肪が優勢となり、エネルギー消費が減少するだけでなく、食欲が増加することも報告されています。
 


脂肪細胞から分泌されるホルモンであるレプチンは、食欲を抑制しエネルギー消費を調整する役割を持っています。しかし、去勢後にはレプチン抵抗性が進行する可能性があり、脳内での満腹シグナルが弱まることで食欲が増加します。
 


また、インスリン抵抗性も進行しやすくなり、これが血糖調節の異常と脂肪蓄積の増加を引き起こす原因となります。
 


さらに、腸内細菌叢が変化し、肥満との関連が示唆されています。
 


去勢後に肥満が進行すると、犬はメタボリックシンドローム（肥満、高血圧、インスリン抵抗性など）のリスクが高まります。特に、脂肪組織から分泌される炎症性サイトカイン（IL-6やTNF-αなど）が慢性的な炎症を引き起こし、代謝異常や酸化ストレスが細胞機能に悪影響を及ぼすことが分かっています。
 


去勢後の肥満を予防するには、栄養管理と運動療法が重要です。去勢後はエネルギー消費が低下するため、カロリー摂取を減らすことが推奨されています。
 


また、あまり知られていませんが、タンパク質の割合が多い食事を採用することで筋肉量を維持しながら脂肪蓄積を防ぐことができる可能性があります。運動も有効です。ご家族自身の食生活を改善することも有効かもしれません。
 


筋肉を落とさず、脂肪を蓄積しない食事は理想です。繊維質の多い食事も効果がありますが、筋肉も同時に落としてしまうかも知れませんし、おそらく満腹感を得にくい上、栄養不足になるかも知れません。
 


ある文献によると、例えば、94.0 gタンパク質/1000 kcal (4184 kJ)の食事は、その効果があります。そのような食材は、タンパク質が豊富な「ささみ」などがあり、いわゆる脂身が少ない肉です。一般的なドッグフードと比較するとかなり高タンパク質です。また、植物性の食材では、大豆が代表的ですが、犬は大豆を好んで食べないでしょう。
 


だからと言って、「ささみ」や「大豆」ばかり食べていたら脂肪飢餓などの栄養失調になる可能性がありますが、おやつを与えている場合、カロリー摂取量の 10% をめどに「ささみ」を取り入れることは合理的です。
 


肥満になるのはタンパク質が足りないことが一因かもしれません。犬は雑食性はありますが、通性肉食動物ですから、肉食が適しており、上記のような高タンパク質な食材は筋肉を維持しながらダイエットできる可能性があるのは体に適しているからでしょう。
 


うちの犬は肉食ダイエットですので、動物性タンパク質を十分摂っています。先日去勢手術をしました。食欲は変わりませんし、食事量も同じでしたが、5%位体重が増えました。筋肉量は普遍、腰振りがなくなりました。
 


どんな食事内容でも、手術により体重が増える可能性があると考えられます。それは先の理屈からは明らかであり、一般的なフードだったら、インスリンの働きによりもっと体重は増加していただろうと予想しています。
 





参考文献

- Alexander, J. E., et al. (2011). Energy balance in neutered dogs. *Journal of Veterinary Internal Medicine*, 25(4), 857-866.

- Belsito, K. R., et al. (2009). Changes in food intake and body weight in neutered dogs. *Veterinary Journal*, 182(3), 378-380.

「高タンパク質、高繊維の食事は、避妊手術後の成犬の血中コレステロールを減らし、体調を改善することができます」
「繊維摂取量の増加による有益な効果の 1 つは、脂肪とタンパク質の消化率が低下することで、食事から吸収されるエネルギー量が減少する可能性があることです ( Weber et al., 2007 ; Adam et al., 2014 ; Kröger et al., 2017 ; Davis, 2018 ; Hervik and Svihus, 2019 )」
Phungviwatnikul T, Valentine H, de Godoy MRC, Swanson KS. Effects of diet on body weight, body composition, metabolic status, and physical activity levels of adult female dogs after spay surgery. J Anim Sci. 2020 Mar 1;98(3):skaa057. doi: 10.1093/jas/skaa057. PMID: 32064516; PMCID: PMC7070154.

「犬の去勢は肥満につながり、腸内細菌叢と短鎖脂肪酸の変化がその過程で重要な役割を果たします」
Yang, K., Lin, X., Jian, S., Wen, J., Jian, X., He, S., Wen, C., Liu, T., Qi, X., Yin, Y., & Deng, B. (2023). Changes in gut microbiota and short-chain fatty acids are involved in the process of canine obesity after neutering.. Journal of animal science. https://doi.org/10.1093/jas/skad283.

「去勢すると雄犬の肥満リスクが高まりますが、雌犬は避妊手術の有無にかかわらずリスクがあり、飼い主の体重状態、給餌方法、運動時間は犬の肥満に複雑な役割を果たします」
Bjørnvad, C., Gloor, S., Johansen, S., Sandøe, P., & Lund, T. (2019). Neutering increases the risk of obesity in male dogs but not in bitches - A cross-sectional study of dog- and owner-related risk factors for obesity in Danish companion dogs.. Preventive veterinary medicine, 170, 104730 . https://doi.org/10.1016/J.PREVETMED.2019.104730.

「除脂肪体重の減少を最小限に抑えながら体脂肪の減少を促進します。おやつをカロリー摂取量の 10% に制限し、運動量を増やすと、体重管理を成功させることができます」
Laflamme DP. Companion Animals Symposium: Obesity in dogs and cats: What is wrong with being fat? J Anim Sci. 2012 May;90(5):1653-62. doi: 10.2527/jas.2011-4571. Epub 2011 Oct 7. Erratum in: J Anim Sci. 2012 Jul;90(7):2424. PMID: 21984724.

「去勢後に、94.0 gタンパク質/1000 kcal (4184 kJ)の食事などの高タンパク質食事を犬に利用することで、飼い主は去勢前と同じ量を与えても体脂肪蓄積のリスクが低くなる可能性があります」
「猫の研究では、去勢後のMERの減少が示されています。三橋らは去勢12週間後、MERが25%減少したことが観察した」
Kawauchi IM, Jeremias JT, Takeara P, de Souza DF, Balieiro JCC, Pfrimer K, Brunetto MA, Pontieri CFF. Effect of dietary protein intake on the body composition and metabolic parameters of neutered dogs. J Nutr Sci. 2017 Aug 18;6:e40. doi: 10.1017/jns.2017.41. PMID: 29152244; PMCID: PMC5672309.