2025/03/01
FIPのライオン

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
報道によると、ある動物園のライオンの死因として猫伝染性腹膜炎(FIP)が診断されたとのことですが、報道されたニュースの情報から判断すると、診断において、慎重な検討が必要な点がいくつかあると考えました。
猫のFIPの確定診断にはさまざまな情報を考慮した多角的な検討が不可欠です。報道では「脳に炎症が確認され、髄膜からネココロナウイルスの抗体が検出された」とありますが、この情報だけではFIPの確定診断としては不十分である可能性があります。
まず、「髄膜の抗体検査」という表現は誤植の可能性があり、通常、髄膜そのものから抗体を測定することはしません。仮に「髄液」の抗体検査を指しているとしても、参考文献にはその検査の記載があるものの、髄液での抗体検査は診断的価値が高くなく、FIPの確定診断にはあまり用いられません。陽性であったとしても、診断の根拠としては限定的です。
FIPは脳炎を引き起こすことがありますが、脳炎が生じる疾患はFIP以外にも複数存在します。さらに、報道では「FIPによるライオンの死亡例は世界的にもまれ」とされていますし、猫以外のライオンの症例報告なども、ほとんど見当たりません。ライオンにおけるFIPの発症に関する情報は極めて限られており、確率論から言えば、可能性は高くはないでしょう。
また、ライオンの6歳は猫の6歳とは異なるものの、一般的にFIPは若齢猫での発症が多く、6歳の猫では発症率が低くなる傾向があります。この点からも、FIPの診断には慎重な評価が求められます。
さらに、動物園のような隔離された環境において、新たな感染症が流行する可能性は低く、報道内で言及されている専門家のコメントも、あくまで一般論にとどまるものと考えられます。
現在の情報では、「FIPと断定するにはさらなる検証が必要」と言えるでしょう。臨床的にFIPの診断には単一の決定的な検査がなく、多くの状況証拠を積み重ねることが求められます。参考文献でも指摘されているように、FIPの診断は「レンガを積み上げるような作業」に例えられます。
確定診断のためには、組織の免疫染色による抗原検出が有効ですが、これは研究機関レベルの検査であり、生前診断としてはあまり現実的ではありません。仮にライオンでこの手法が確立されいて、脳組織などでFIPウイルス抗原が陽性であれば、診断の確実性はかなり高まります。
脳組織検査で、脳に肉芽腫性炎という特徴的な炎症が確認されていれば、かなりFIPの可能性は上昇しますが、それでもFIP以外の疾患の可能があります。
FIPは全身のさまざまな部位に炎症を引き起こす疾患であり、腹膜だけでなく、眼、脳、心臓などのさまざまな臓器にも影響を及ぼすことがあり、多種多様の症状の出現の可能性があります。調子の悪いすべての猫についてFIPを考慮する必要があるといっても過言ではありませんが、その有無を明確に判断できる簡易な検査は存在しません。
現在の限られた情報では、このライオンの死因としてFIP以外の疾患も依然として考慮すべき状況にあると考えられます。つまり、FIP疑いの域を出ません。
より詳しく、この動物園がFIPと診断した根拠を知りたいところです。もしかしたら、診断過程は正確だったが、記者の報道の仕方に改善が必要なのかもしれません。
この記事に対して、本文は懐疑的な観点からの考えですが、医療者側は常に慎重さが要求されるため、「そのような姿勢て考察することが大切だ」ということを、あえてホットなトピックをネタにお伝えした次第です。
参考文献など
FIP の診断検査。獣医師は患者の病歴、シグナルメント、身体検査所見を考慮し、それらに基づいて診断検査とサンプルの種類を選択し、疑いの指標を「レンガ 1 つ 1 つ」構築する必要があります。
血液(血清、PBMC、血漿)に加えて、滲出液、脳脊髄液、房水など、さまざまなサンプルで抗FCoV抗体検査も実施されています。しかし、抗体は血液から高タンパク質の滲出液に容易に漏れ出したり、乱れた血液脳関門を通過したりする可能性があるため、これらのサンプルを使用した診断価値も限られています。
Thayer V, Gogolski S, Felten S, Hartmann K, Kennedy M, Olah GA. 2022 AAFP/EveryCat Feline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelines. J Feline Med Surg. 2022 Sep;24(9):905-933. doi: 10.1177/1098612X221118761. Erratum in: J Feline Med Surg. 2022 Dec;24(12):e676. doi: 10.1177/1098612X221126448. PMID: 36002137; PMCID: PMC10812230.
仙台市八木山動物公園(太白区)で昨年12月4日に死んだライオンの「なお」(雌、6歳)=写真、八木山動物公園提供=について、同園はネココロナウイルスによる「猫伝染性腹膜炎(FIP)」が死因だったと発表した。専門家によると、FIPでライオンが死ぬのが確認されるのは珍しいという。同園は死骸を岩手大に送り、病理組織検査を実施。脳に炎症が確認されたほか、髄膜からネココロナウイルスの抗体が検出された。FIPは、ネココロナウイルスが免疫の低下などにより、体内で遺伝子変異することで発症。腹水や胸水がたまったり、ふらつきなどの神経症状が表れたりする。有効な治療薬は少なく、発症すると高確率で死ぬ。ネコ科のウイルスに詳しい北里大獣医学部の高野友美教授(獣医感染症学)は「FIPでライオンが死ぬのは世界的にまれで、国内では聞いたことがない」と語る。主にふん便を介して感染が拡大し、基本的に空気感染はしないという。同園もFIPでライオンが死んだという国内の報告例は把握していないといい、ライオンの飼育環境については「野生の動物が入らないよう、管理を徹底している」と説明。今回の感染経路は不明としている。ネココロナウイルスは飼い猫が感染することが多いが、人間への影響はない。同園は「なおの死を教訓に、より一層、動物の健康管理に努める」としている。
ライブドアニュース 仙台の動物園で死んだライオン、死因はネココロナウイルスによる「猫伝染性腹膜炎」…専門家「世界的にまれ」 2025年2月20日 7時37分 読売新聞オンライン.https://news.livedoor.com/article/detail/28188179/(参照2025/02/27)
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