ふじみ野市
大井みどり動物病院
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2025/03/15

プランAとプランB

フェールセーフ
 
 
 
 

 

 

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。

 
 

猫の陰茎の手術には、会陰尿道ろう術という手術があります。この手術は、尿路閉塞や再発性の尿道閉塞により狭くなった陰茎内の尿道を拡張し、尿の排出を改善することが目的です。

 


この手術の難しさは、手術直後に尿がよく出るようになっても、適切に施術しなければ数ヶ月以内に再び尿道が閉塞してしまうリスクがあることです。尿路閉塞は腎不全や電解質異常を引き起こし、放置すれば短期間で致死的になります。多くの場合、手術を受けるのは若齢猫であるため、術後合併症をいかに防ぐかが極めて重要です。猫の生涯にわたる快適な排尿は生命維持に不可欠であり、この手術の成否に大きく依存します。そのため、会陰尿道ろう術は技術と繊細さを要求される手術の一つです。

 


この手術は比較的広く行われていますが、ほとんどの獣医師は「従来法」(参考文献参照、プランAとする)とされる標準的な方法で実施します。プランAは長年の実績があり、陰茎を切除し、尿道を皮膚に縫合して新たな排尿口を作成します。しかし、この方法は解剖学的に正常な構造から大きく逸脱しているため、尿道狭窄や慢性皮膚炎といった合併症を引き起こしやすく、継続的なケアや通院が必要になる場合があります。また、一度狭窄が起こると、再手術は技術的に難易度が格段に上がり、同じ術式での改善は困難になる可能性があります。

 


これに対し、プランAの変法としていくつかの術式が提案されています。中でも「改変法」(参考文献参照、プランBとする)は、元の排尿口を利用し、解剖学的な逸脱を抑える手法です。この方法は、尿道が外部環境に直接曝露されないため、炎症や狭窄のリスクを低減できると考えられています。理論的には、プランBは生理的な排尿機能をより自然に保つ点で優れた選択肢です。しかし、技術的にやや難易度が高く周知されていないので実際に経験を持つ獣医師はかなり少数でしょう。

 


私はこれまでプランBを実施したことはありませんでしたが、猫の長期的なQOLを考慮し、以前プランBでの施術を決断しました。プランBが困難であれば、その場でプランAに切り替えることも可能であるため、この判断は現実的で安全な選択肢でした。

 


しかし、限られた情報の中で挑戦するしかなく、熟練した獣医師から直接指導を受ける機会も得られません。外科手術の技術習得において、直接の指導が理想的であることは言うまでもありません。経験がほとんどない状況は、完遂を要求される臨床の現場では、頼れるのは自分しかおらず、非常に不安でした。しかし、幸いにも初回の手術は成功し、術後管理も不要な状態に仕上げることができました。2例目も成功し、繰り返しの経験によって重要な技術的ポイントが明確になりました。より良い縫合方法を検討しながら、3例目に挑戦しました。

 


しかし、3例目の手術では包皮粘膜の加工が適切に行えず、その場でプランAへの変更を余儀なくされました。これは想定外で、まったく予期していませんでしたが、プランAでも、順調に排尿できており、結果としては成功といえます。

 


プランAに満足せず、より良い方法を模索する姿勢は非常に重要です。手術は失敗が許されない分野ですが、プランAを保険として備えておくことで、そのリスクを最小限に抑えることが可能です。

 


プランBを学ぶ過程で得られた知識や新たな発見は非常に貴重であり、プランAの見落とされがちな欠点や疑問点、プランBの改善点を考察するきっかけにもなりました。学問は基本が重要であり、基本を理解しているからこそ応用が可能です。今回のように初めての術式でも、基礎知識があれば、指導者不在の中でも良い結果に導くことができます。

 


プランAの手技は手術動画サイトなどで確認できますが、その方法を忠実に再現するだけでは、得られるものは限られます。物事の本質は中心にあるのではなく、その周辺にこそ重要な学びや新たな発見があります。常識を疑い、新たな挑戦を続ける姿勢が重要であると考えています。また、能動的に学び、プレッシャーを感じながら経験したことは深く記憶に刻まれ、その後の臨床において大きな力となります。

 


また、普通、「想定外」は困ったことですが、科学的に起きるべくして起きたことで、矛盾はなく、納得できることで、考えがまったく及ばないことを知ることになり、ここに最高の学びがあります。

 


もちろん、医療である以上、無謀な挑戦は許されません。しかし、適切なリスク管理のもとで新しい技術に挑戦することは、医療従事者として極めて重要な責務であると考えています。

 


この考えはフェールセーフを包含しています。例えば、飛行機のエンジンは1基停止しても残りのエンジンで飛行を続けられるように設計されているのです。動物の医療もフェールセーフの考え方が大事です。

 
 
これらの考えや心理状況は手術を行う者にしか理解し難く、ご家族やスタッフにはあまり伝わることのない部分かもしれません。
 
 
 
参考文献

Yeh LS, Chin SC. Modified perineal urethrostomy using preputial mucosa in cats. J Am Vet Med Assoc. 2000 Apr 1;216(7):1092-5, 1074. doi: 10.2460/javma.2000.216.1092. PMID: 10754669.


 


 


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