2025/03/22
口の中のメラノーマ疑いをどうするか2

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
11歳のラブラドールさんが、3ヶ月前に歯肉に約1センチ大のしこりが認められ受診しました。
悪性黒色腫(メラノーマ)が最も疑われましたが、良性か悪性かは不明なものの、腫瘍であることは間違いないと判断しました。細胞診の結果、リンパ腫や肥満細胞腫である可能性は非常に低いと考えられました。
犬種や年齢を考慮すると、悪性腫瘍、すなわち固形がんである可能性は十分にあります。この場合、標準的な選択肢の一つは外科手術です。なぜならば、がん死の多くが転移死なので、がん治療のポイントは転移を進行させないことであり、転移が認められないうちに、原発巣を排除する考えが一般的であるからです。
固形がんであるならば、現在すでに転移している場合と、まだ転移していない場合のどちらかです。腫瘍が1センチまで成長していることを考えると、転移能を有する腫瘍であれば、現時点で転移している可能性が高いと推測されます。逆に、転移しないタイプの腫瘍であれば、今後も転移しない可能性があります。
転移しない腫瘍や腫瘍以外であれば、現時点で生活に支障がない以上、経過観察は合理的な選択肢の一つです。残念ながら転移している場合の治療は非常に限定的です。
CT検査などで転移の有無を徹底的に調べることは可能ですが、画像診断で転移が確認されなくとも、微小転移は検出できず、完全に転移を否定することはできません。
標準的な獣医学的治療では、画像検査で転移が確認されなければ、顎骨を含めた腫瘍の外科的切除が推奨されます。その目的は、将来的な転移リスクを低減することです。
しかし、外科手術は確実に生活の質(QOL)を低下させます。さらに、手術後に腫瘍の増殖が加速し、転移が顕在化する可能性もあります。予防的な意味で手術を行う獣医師は少なくありませんが、実際に転移を防止できる可能性は低いと考えられます。
腫瘍を完全に切除できなかった場合、被膜に包まれた腫瘍細胞が手術中に拡散し、かえって転移を助長するリスクがあります。仮に転移しない腫瘍であっても、手術によって腫瘍細胞が散らばり転移を誘発するリスクは無視できません。
したがって、この段階での手術は期待値が低く、むしろ新たなリスクを生じさせる可能性が高いと判断しました。抗がん治療もしこりを小さくする働きがある場合(小さくなっても延命につながるかは不明です)がありますが、副作用のリスクが高く、延命は不明であるか、非常に限定的でしょう。逆に治療死のリスクがあります。
これらの私の見解を飼い主に説明し、高度医療施設の受診もご提示しましたが、ご家族は経過観察を選択しました。
残念なことに、3ヶ月後、腫瘍は急速に増大し、転移により逝去しました。非常に進行が早く、高い転移能を持つ悪性度の高い腫瘍であったと考えられます。
この進行の早いタイプの腫瘍は、仮に3ヶ月前に、手術や抗がん剤治療を行っても有意な効果は望めず、むしろ副作用や体力の消耗によって短命に繋がった可能性が高いと推察されます。進行がんにおいては、治療そのものが動物のQOLを著しく損ない、腫瘍の進行を加速させることがあると私は考えています。今回の経過観察という選択は、他のさまざまな背景を加味すると、最善であったと考えています。
抽象的に考えれば、以上のことは、がんを疑うしこりにすべて当てはめれる考えかもしれません。つまり、そこにある多くのしこりは、症状がなれば、そのまま経過観察するのが、かなり良い選択肢になりうると、現時点では考えています。
でも、リンパ腫を疑う場合は例外です。また、症状のある場合、がんの塊による物理的な圧迫による採食困難や腸閉塞、尿路圧迫、痛み、などを手術で改善できる場合がありますので、その時は手術は考慮することが良いです。この場合の目的は転移防止でなく、症状を軽減するための手術になり、目的が違います。
また、積極的ながん治療をしなければしないほど、抗がん剤固有の副作用はもちろんですが、比較的穏やかな最期が迎えられる傾向があると私は考えています。
なぜならば、体はうまくできており、さまざまなホルモンや生成された過剰に産生された毒素が麻酔薬のように働き、穏やかな死を迎えることができるのだと考えているからです。体全体が死を迎えるように総合的に調和するのでしょう。
一方、がんの治療のための積極的な治療、大きな手術や細胞障害性が強い化学療法を行っていると、その調和を取ることが難しくなり、苦痛が生じやすいのではないかと考えています。
がんの末期には苦痛が伴うというのが通念ですが、がん治療をしているからかもしれません。昔の人は医療介入をほとんどしませんでしたが、自宅で安らかに最期を迎えることの方が多かったかもしれません。
それらの真意はわかりませんが、私は経験上ではそのように感じています。このラブラドールさんは逝去の直前まで食事を摂れていましたので、穏やかな最期を迎えることができたであろうと考えています。
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