2025/04/01
栄養素の亜鉛について

ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
犬の食事における栄養基準として広く参照されるAAFCO(全米飼料検査官協会)の基準があります。各栄養素にそれぞれの基準が定められています。これをクリアしていると、総合栄養食とされ、多くのドッグフードメーカーが採用しています。
ドッグフードではなく手作り食を選択する方もいますが、Morris(2021)の研究によると、評価された100以上の手作り食レシピの中でAAFCO基準を満たしているものは一つもなく、手作り食の多くが必要な栄養素を欠いている可能性が示唆されています。例えば、亜鉛摂取をAAFCO基準に沿って確保することは、自然な食材の組み合わせでは非常に難しいとされています。AAFCO基準を自然な食材でクリアするためには、肝臓や牡蠣など特定の数少ない亜鉛含有量の高い食材を多用する必要があります。
ところで、AAFCO基準に基づくペットフードの亜鉛量は、人の推奨量と比較するとかなり多いのです。これは抗栄養素(食物繊維やフィチン酸塩など)が亜鉛吸収を阻害するためと考えられています(Kazimierska et al., 2020)。また、Pereiraら(2021)の研究では、市販のドライドッグフードの亜鉛含有量に大きな変動があり、法定制限を超える場合も確認されています。また、Hambidgeら(2010)は、亜鉛サプリメントからの吸収が不安定であり、ダウンレギュレーション(亜鉛吸収の調整機能)によって十分に吸収されていない可能性を指摘しています。
野生の犬がAAFCO基準を満たす亜鉛量を摂取している可能性は低いと考えられます。なぜならば、それをクリアするには特定の食材ばかり摂取する必要があり、自然界ではまず不可能だからです。彼らは多様な食材を摂取することでバランスを保っており、特定の基準値を目指した食事を摂っているわけではありません(Pedrinelli et al., 2017)。Kazimierskaら(2022)の研究でも、手作り食を与えられている犬は市販フードを食べる犬より亜鉛摂取量が少ない傾向にあるものの、血清亜鉛濃度には有意な差がないと報告されています。
うちの犬は肉食ダイエットを実施しており、肝臓肉を定期的に与えていますが、亜鉛はAAFCO基準に達していません。しかし、健康状態は良好であり、これは抗栄養素が少ない食事によって亜鉛が効率的に吸収されているためと考えています。また、ペットフードの多くが酸化亜鉛などの無機物のサプリメントでは亜鉛補充していますが、肉の中の亜鉛はを有機物と結合しており吸収効率が高いため、AAFCO基準より少ない摂取量でも十分である可能性があります。
手作り食にAAFCO基準をそのまま適用することは科学的に妥当とは言えません。AAFCO基準は、加工された穀物を多く含むペットフード向けに策定されており、肉食性の強い犬に適した基準ではない場合があります。また、亜鉛サプリメントを手作り食に追加することは、過剰症のリスクを生む可能性があります。
そもそも、そのペットフードにAAFCO規定の量がきちんと過不足なく含まれているかは分かりません。結構な確率で亜鉛過剰かも知れません。
AAFCO基準を満たしていない手作り食が必ずしも栄養失調を引き起こすとは言えません。栄養素の吸収や代謝は複雑で、解明されていることは限られています。犬や猫が本来食べていた食事に近づけることを基本とし、科学的知見を活用しながら現代の生活に適応した食事を構築することが重要です。
ペットフード用のAAFCOの基準を手作り食に適応することはナンセンスであり、その基準自体まだまだ改善の余地があると言えます。一般的に、権威のありそうな機関の基準を盲信することは危険であり、特に医療や科学の分野では、ガイドラインや基準を根拠にせず、その背景やエビデンスを理解することが重要だと思います。例えばAAFCOの構成員にはペットフード会社の人が含まれており、中立的な機関ではありません。また、手作り食の愛好家が増えるほど、ペットフード会社は売り上げが減る事実がありますから、一般的にペットフード会社が資金提供している研究報告を鵜呑みにしないほうが良いかもしれません。
亜鉛一つを例にとっても、化学形態による生体利用率は様々です。さらに、腸内細菌や他の栄養素との相互作用に加え、遺伝や体質の違いによってもその働きは変化します。加えて、摂取量や摂取期間(短期・長期)、さらには摂取する食物の加工度にも影響を受けます。このことは亜鉛だけでなく、全ての栄養素に言えることであり、それらの組み合わせは無限大ですから、その全容を人類が完全に理解するのは到底不可能だと思います。だからこそ、私は栄養基準はずっと昔から食べてきたものを参考にするのが最も簡単かつ理にかなった方法だと考えています。
したがって、栄養の専門家が言う「手作り食ではまず亜鉛が不足する」というのは誤解を招く表現であり、正しくは、「手作り食はペットフード用に策定されたAAFCO基準には大抵不足しますが、それが健康被害につながるとは限らない」と言う方が正しいでしょう。それから、手作り食に人工的なサプリメントを用いて、AAFCOの基準を満たすことが最善だという考えには議論が必要でしょう。
参考文献
評価のために提出された100以上の自家製ダイエットのレビューでは、0%が犬または猫のビタミンとミネラルの要件をすべて満たしています。
自家製のペットの食事は、多くの場合、すべてのビタミンとミネラルの要件を満たしていないため、犬と猫に高品質でバランスの取れた食事を確保するために、適切なサプリメントと教育の必要性を強調しています。
Morris CL. 128 Homemade Pet Diets—What Are the Key Supplement Considerations? J Anim Sci. 2021 Oct 8;99(Suppl 3):65–6. doi: 10.1093/jas/skab235.118. PMCID: PMC8499233.
したがって、市販の食品に含まれる栄養素の潜在的な「損なわれた」バイオアベイラビリティを補うために、FEDIAFは、その後の発表された研究からの科学的証拠も使用して、推奨事項を更新しました。
市販のドライドッグフードの亜鉛含有量は、栄養要件よりも最大許容限度の不遵守が頻繁にあり、大きな変動性があります。Pereira AM, Maia MRG, Fonseca AJM, Cabrita ARJ. Zinc in Dog Nutrition, Health and Disease: A Review. Animals (Basel). 2021 Apr 1;11(4):978. doi: 10.3390/ani11040978. PMID: 33915721; PMCID: PMC8066201.
サプリメントからの亜鉛は、亜鉛吸収の阻害剤を欠いている食事と一緒に摂取した亜鉛と異なる吸収が示されていません。Hambidge, K., Miller, L., Westcott, J., Sheng, X., & Krebs, N. (2010). Zinc bioavailability and homeostasis.. The American journal of clinical nutrition, 91 5, 1478S-1483S . https://doi.org/10.3945/ajcn.2010.28674I.
食物繊維はまた、不溶性キレートの形成により、Znのバイオアベイラビリティを低下させる可能性があります[6]。食物繊維は伝統的に便の質を高めるためにドッグフードに使用され、内因性酵素によって消化されないが、ガスと揮発性脂肪酸の生成により大腸で発酵される食事の植物成分で構成されています。
Pereira AM, Guedes M, Matos E, Pinto E, Almeida AA, Segundo MA, Correia A, Vilanova M, Fonseca AJM, Cabrita ARJ. Effect of Zinc Source and Exogenous Enzymes Supplementation on Zinc Status in Dogs Fed High Phytate Diets. Animals (Basel). 2020 Feb 29;10(3):400. doi: 10.3390/ani10030400. PMID: 32121315; PMCID: PMC7142709.
犬用の手作りフードには市販のものよりも亜鉛の量が少ないと一般に信じられていますが、食事は血清亜鉛レベルに大きな影響を与えませんでした。また、血清亜鉛濃度に対する年齢、品種、ライフスタイル、体重、体調スコアの影響はありませんでした。
Zinc Concentration in Blood Serum of Healthy Dogs
Published: 13 October 2022
Volume 201, pages 3356–3366, (2023)
Kazimierska K, Biel W, Witkowicz R. Mineral Composition of Cereal and Cereal-Free Dry Dog Foods versus Nutritional Guidelines. Molecules. 2020 Nov 6;25(21):5173. doi: 10.3390/molecules25215173. PMID: 33172044; PMCID: PMC7664208.5種類のフードはZnの法定制限を超えており、そのうち1種類ではZnレベルがほぼ2倍高かったです。
熱心に穀物を食べる文化では、亜鉛欠乏、骨粗鬆症、鉄欠乏性貧血などの栄養不足に関連する量であるフィチン酸塩を1日あたり最大5000mg摂取する可能性がある
Sakr HF, Sirasanagandla SR, Das S, Bima AI, Elsamanoudy AZ. Insulin Resistance and Hypertension: Mechanisms Involved and Modifying Factors for Effective Glucose Control. Biomedicines. 2023 Aug 15;11(8):2271. doi: 10.3390/biomedicines11082271. PMID: 37626767; PMCID: PMC10452601.
食物繊維やフィチン酸塩の含有量が比較的多い食事では、亜鉛や銅などの微量元素の腸吸収が著しく減少する可能性があります [11, 53]。これに加えて、食事中の高レベルの Ca は胃腸管での鉄と亜鉛の吸収を阻害する可能性があります [69]。
Kazimierska K, Biel W, Witkowicz R. Mineral Composition of Cereal and Cereal-Free Dry Dog Foods versus Nutritional Guidelines. Molecules. 2020 Nov 6;25(21):5173. doi: 10.3390/molecules25215173. PMID: 33172044; PMCID: PMC7664208.
Seを除いて、すべての微量元素は成犬の栄養要件を超えて供給されました。Cu、Se、Znの法的制限が超えられました。
Pereira AM, Pinto E, Matos E, Castanheira F, Almeida AA, Baptista CS, Segundo MA, Fonseca AJM, Cabrita ARJ. Mineral Composition of Dry Dog Foods: Impact on Nutrition and Potential Toxicity. J Agric Food Chem. 2018 Jul 25;66(29):7822-7830. doi: 10.1021/acs.jafc.8b02552. Epub 2018 Jul 11. PMID: 29953228.
18のテストされたドッグフード(60%)は、栄養ガイドラインの少なくとも1つの推奨事項を満たしていません。4つのドッグフードは法定制限のFeを超え、5つのフードはZnの法定制限を超えました。そのうちの1つでは、Znレベルはほぼ2倍高かったです。昆虫タンパク質を含むドッグフードは、Mn含有量の法的制限を超えました。
Kazimierska, K.; Biel, W.; Witkowicz, R. Mineral Composition of Cereal and Cereal-Free Dry Dog Foods versus Nutritional Guidelines. Molecules 2020, 25, 5173. https://doi.org/10.3390/molecules25215173
有機源(例えば、亜鉛アミノ酸キレートまたはタンパク質酸塩)は、無機源(例えば、酸化亜鉛)よりも犬にとってより生物学的に利用可能であると報告されました(Lowe et al.、1994; Lowe and Wiseman、1998; Wedekind and Lowry、1998)
Pereira AM, Maia MRG, Pinna C, Biagi G, Matos E, Segundo MA, Fonseca AJM, Cabrita ARJ. Effects of Zinc Source and Enzyme Addition on the Fecal Microbiota of Dogs. Front Microbiol. 2021 Oct 13;12:688392. doi: 10.3389/fmicb.2021.688392. PMID: 34721312; PMCID: PMC8549731.
亜鉛は、植物に含まれる非ヘム鉄よりも生体利用が容易な動物のヘム鉄と同様に、タンパク質に結合した形の動物由来の食品からよりよく吸収されます。反芻動物の肉中の鉄と亜鉛の平均生物学的利用能は、豆、レンズ豆、エンドウ豆などの豆類の生物学的利用能のそれぞれ 2 倍と 1.7 倍高いと推定されています ( Beal and Ortenzi, 2022 )
Leroy F, Smith NW, Adesogan AT, Beal T, Iannotti L, Moughan PJ, Mann N. The role of meat in the human diet: evolutionary aspects and nutritional value. Anim Front. 2023 Apr 15;13(2):11-18. doi: 10.1093/af/vfac093. PMID: 37073319; PMCID: PMC10105836.
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