2025/06/07
麻酔薬は3種類

埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
「安全な麻酔薬は存在せず、安全な麻酔医がいるだけだ」——この言葉は、麻酔という行為の本質を端的に表しています。
麻酔薬には多くの種類があり、それぞれに特性、長所と短所があります。万能な麻酔薬は存在せず、一般的には複数の薬剤を組み合わせて用い、相互に短所を補いながら相乗効果を引き出します。そのプロセスはしばしば“パズル”にたとえられます。
安全な麻酔を実現するためには、いくつかの工夫が必要です。中でも、循環動態や血圧への影響が少なく、代謝が速やかで、呼吸抑制が軽微な麻酔薬は理想的といえますが、これらすべての条件を満たす薬剤は存在しません。
臨床麻酔において特に注意が必要なのが、導入時の「挿管」です。これは気管にチューブを挿入し呼吸管理を行う手技で、十分な麻酔深度が必要になります。顎の筋緊張を緩和し、咽頭反射を抑える必要がありますが、この段階で自発呼吸が止まってしまうことがあり、もし挿管がうまくいかなければ気道が確保できず、酸素供給が断たれ、命に関わるリスクがあります。
また、麻酔終了後も呼吸抑制が持続するような薬剤は避けるべきです。そのため、麻酔作用が短く、切れの良い薬が望まれます。
犬や猫の麻酔にはいくつかの“定番レシピ”が存在しますが、多くは呼吸抑制が強すぎるなどの理由で、私は満足していませんでした。当院では現在、3種類の麻酔薬を組み合わせた独自のプロトコルを使用しており、これにより前述の課題をほぼ解決できています。
場合によっては、さらに1剤を加えることもありますが、それぞれの投与量は一般的な使用量より少なく設定しています。
もちろん、挿管が困難な症例は一定数存在します。それ自体は避けられません。もしも呼吸が止まり、挿管が難航すれば、術者がパニックに陥ったり、緊急で気管切開が必要になることもあります。しかし、呼吸が保たれていれば、落ち着いて再挑戦することが可能です。人医領域では、困難時に上級医を呼ぶという指針もあります。
自発呼吸を維持しながら挿管できることこそが、最も重要なポイントです。そして、私が採用している3種の麻酔薬の組み合わせは、それを最も確実かつスムーズに達成できる方法の一つと考えています。さらに、この組み合わせは循環への影響が少なく、代謝も早いため、より安全に挿管が可能となり、術者も落ち着いて対応できます。
一方で、「高齢動物には別の、安全な薬剤を使うべきだ」という考え方がありますが、私はこれに懐疑的です。投与量の調整はもちろん必要ですが、安全性の高い薬剤は年齢に関係なく使用すべきであり、薬剤の種類自体を年齢で分ける必要性はないと考えています。
ごく一部の例外を除けば、ハイリスク症例や基礎疾患のある動物にも同様の3剤を使用しています。量や速度を調整すれば、ほとんどの症例に対応可能です。
つまり、年齢・性別・健康状態を問わず、当院ではこの麻酔レシピでほぼすべての症例に対応しています。
また、この方法は柔軟性が高く、超短時間にも応用可能で、麻酔予定のない外来で急遽使うこともあります。普通の病院は行いませんが、長年の実績と経験から十分可能で、安全と判断できます。
専門の麻酔科医であれば、より洗練された麻酔計画を立てることもできるでしょう。しかし、一般的な動物病院においては、シンプルかつ汎用性の高いこの方法が、現実的で非常に有用だと自負しています。
麻酔には確かにリスクがありますが、基本的には安全です。このレシピであれば、通常の生活に大きな問題がない犬猫に対して、全身麻酔を極めて低リスクで行うことが可能であると考えています。
一般的な動物病院において、この方法がシンプルな最適解だと現時点では考えています。
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