ふじみ野市
大井みどり動物病院
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夏季休業なし
10時〜

2025/07/19

予想できませんでした

手術翌日のチアノーゼ
 
 
 
 

 

 
 
埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 
 
 
手術は「事前の準備ですべてが決まる」と言っても過言ではありません。安全に手術を行うためには、事前にリスクを評価し、入念な検査を行ったうえで、手術の内容や入院期間などを綿密に計画する必要があります。
 
 
 
先日、膀胱内の結石除去と口腔内のしこりの切除生検を行ったワンちゃんがいました。やや肥満体型で、代謝が低く痩せにくい体質が疑われたため、手術前に十分な検査を行いました。
 
 
 
血液検査(ホルモン検査を含む)や画像検査の結果、明らかな基礎疾患は見つからなかったため、手術を実施することにしました。ただし、喉まわりに脂肪が多く、気管がやや細い印象はありましたが、いびきなどの症状はほとんど見られず、麻酔リスクは高くないと判断しました。
 
 
 
手術そのものは一般的で、手技的なリスクはほとんどありません。ただし、肥満のため麻酔には注意が必要で、特に導入時と覚醒時には慎重な対応が求められました。つまり、眠るまでの過程と目覚る過程に問題がなければ手術は順調に終えられると考えていました。
 
 
 
実際、麻酔は非常にスムーズに進行しました。手術は短時間で終了し、過去最短の部類に入るほどでした。麻酔リスクについてはご家族にやや慎重な見解をお伝えしていたため、無事に終了したことをご報告し、共に安堵していました。
 
 
 
手術日の夕方にはしっかりと覚醒し、元気に吠えるほどの様子でした。
 
 
 
翌日、食事には手をつけませんでしたが、これは想定の範囲内です。高齢に差しかかっており、今回が初めての入院でした。もともと食が細く、問題とは考えませんでした。むしろ、吠える元気があることから、順調と判断していました。
 
 
 
ところが、その日の夕方になって急に呼吸が速くなり、舌が紫色になるチアノーゼの症状が見られました。命に関わる危険な状態です。血栓症なども疑われましたが、これまでの検査結果や性格的傾向を考慮し、強いストレスによる過呼吸と、喉の急性炎症に伴う腫脹と判断しました。鎮静剤、酸素吸入、ステロイドを投与し、無事に回復。水分摂取もなかったため、脱水による影響も考え、点滴も併用しました。
 
 
 
術前検査では、肥満を除けば明らかな基礎疾患はなく、性格的に興奮しやすい傾向がありました。初めての宿泊、術後の興奮、夏の暑さなどを加味すると、ストレス性の呼吸困難と考えるのが妥当です。
 
 
 
よくよく振り返ると、術後から他の入院犬に向かって激しく吠えており、かなりの興奮状態が続いていたようです。
 
 
 
診断名としては「ストレス誘発性低酸素症」とでも呼べるかもしれません。正式な病名ではないかもしれませんが、程度の差こそあれ、強い緊張やストレスによって呼吸が苦しそうになる犬は一定数存在します。通常であれば、心肺機能に問題がなければチアノーゼにまでは至りませんが、今回は手術・麻酔・入院ストレス・挿管刺激・気道の狭さ・年齢・肥満・気温の高さなど、複数の要因が重なったことで発症したと考えられます。加えてアレルギー反応が関与していた可能性も否定できません。
 
 
 
一般的に心肺に疾患がある場合には呼吸困難のリスクがあるため、検査や手術前にその可能性を説明するのは当然であり、日常的に行われています。しかし、今回それら問題がないのに、手術の翌日に「ストレスによるにチアノーゼのリスクがある」と具体的に説明する獣医師は、ほとんどいないでしょう。
 
 
 
今回のケースを振り返ると、「入院せず日帰り手術として当日退院していれば防げたかもしれない」と考えています。当日退院していればチアノーゼの発症を防げた可能性が高く、「日帰り手術」という選択肢を提示できなかったことが心に引っかかっています。
 
 
 
この経験を踏まえ、今後は性格的に興奮しやすいかどうか、入院が無理なくできるかどうかをより慎重に見極める方針です。また、今回のようなリスクについてもご説明しながら、日帰り手術などの選択肢を提示していきたいと考えています。
 
 
 
あらためて、犬や猫の医療においては、入院が性格によっては大きなストレスとなることを再認識させられました。
 
 
 
医療は「最小限で、最短で、シンプルに」が理想です。不足があってはなりませんが、「入院しない」という選択が有効な場合も少なくないと感じています。ただし、それを実現するには、麻酔の覚めが早く、手術や痛みの管理を完璧に行う必要があり、獣医師の経験と知識が求められます。
 
 
 
教科書には、入院中の精神状態への配慮についてはほとんど触れられていません。多くの獣医師が、手術や病気そのものに目を向けがちです。また、「吠えていれば元気」と捉えがちですが、興奮しやすい性格が深刻な事態を招くこともあることは盲点と言えるでしょう。
 
 
 
動物は、慣れた環境や家族から離れて入院している間、不安ばかりで、精神的にも肉体的にもストレスを抱えています。人間のように「治療のためだから仕方ない」と理解することはありません。今回のようなケースは特殊かもしれませんが、動物の精神的負担については、これまで以上に真剣に考慮する必要があると感じました。
 
 
 
とにかく、このワンちゃんが無事に退院し、順調に回復してくれたことは本当に良かったです。そしてこの経験を通して、新たな視点と、より柔軟な医療の選択肢を得ることができました。
 


 


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