2025/08/02
ずっしり感

埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
毎日、犬や猫を診察台に乗せ、身体検査を行っています。その際、動物を抱き上げたときに「軽い」「重い」と感じることがあります。これは単なる体重の重さではなく、体格や見た目に対しての重さ、いわば「ずっしり感」と呼べる感覚です。
この「ずっしり感」が乏しい動物には、慢性的な代謝異常や筋肉量の低下など、何らかの疾患が隠れていることが少なくありません。特に猫は犬ほど体型の多様性がないため、この感覚的な異常をより鋭く察知できます。私はこの感覚を、身体検査の重要な一部と位置づけています。
「ずっしり感」は、医学的には「体の重量密度(body density)」という概念に近いものです。これは体重(kg)を体積(L)で割った値で、筋肉や骨の比率が高いと密度は上がり、脂肪が多いと下がります。
この密度が高い動物は、筋肉量が豊富で骨もしっかりしており、代謝も良好である傾向があります。いわゆるアスリート体型で、生活習慣病や骨粗しょう症のリスクが低いとされます。逆に密度が低ければ、脂肪が多く、筋肉量が少なく、サルコペニアや慢性疾患のリスクが高くなります。
わかりやすく言えば、体が水に沈みやすいほど密度が高く、健康的だと言えるかもしれません。
ただし、実際の動物医療でも体の重量密度を厳密に測定することは難しく、一般的でもありません。そのため、日々多くの動物を診察し抱き上げる私たち獣医師にとって、この“ずっしり感”は直感的で経験的な代替指標として非常に有効だと日頃考えています。
もちろん、この感覚は主観的ですし、犬種や猫種、脂肪や被毛の量によって誤差が生じるため、経験をもとに補正が必要です。しかし、極端に「軽く」感じる場合、それだけで精密検査を検討する価値があると考えています。
一方で、逆に「ずっしり重い」と感じても異常ではないでしょう。むしろ、筋肉質で健康的な体の可能性が高いでしょう。筋肉隆々になる病気はまずありませんし、内蔵や骨がかなり重くなる病気はないでしょう。心筋症で心筋が分厚くなる病気がはありますし、腫瘍などで臓器が大きくなる場合もありますが、その差は感知できないでしょう。腹水やむくみがあれば重くなりますが、その場合は大抵やせほそっていますから、実際は重くなる病気のケースは考慮する必要はないでしょう。
実際、私が知る中で最もずっしり重いのは、自宅で飼っている愛犬です。肉食傾向が強く、筋肉質で密度の高い体格をしています。食事と重量密度には深い関係があると実感しています。
BCS(ボディコンディションスコア)やマッスルスコアなどの既存の評価法もありますが、これらは皮下脂肪や筋肉のみに着目しており、体の水分量や骨密度まではカバーできません。やはり、重量密度のような総合的な評価の視点は重要だと考えます。
「ずっしり感」の評価は、コストもかからず、すぐにでき、特別な機器も必要ありません。少し意識するだけで大きな手がかりになるのですから、日々の診察に取り入れない理由はありません。意識している獣医師はいると思いますが、内科学の教科書には記載はないし、体系化はされてないでしょう。
獣医学ではこの概念自体がおそらくありません。人でもこれを測定することは煩雑でありほとんどされていません。人や牛や馬は持ち上げませんし、ハムスターなどの小さな動物もそれを感知することは難しいでしょう。新生児を抱き抱える医師はもしかしたら感じることかもしれませんが、もっともこのずっしり感が有効なのは犬猫でしょう。
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