2025/08/02
更新と低下

埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
多くの病気は、その臓器や組織が「過剰に働いている状態」か「十分に働いていない状態」に分類できるのではないかと、私は考えています。しかし、このような視点による分類は、医学の教科書ではあまり扱われていないように思われます。
例えば、風邪やアレルギー疾患では、免疫反応が過剰に働いていることが症状の原因です。これは「機能の亢進」に分類できるでしょう。甲状腺機能亢進症や副腎皮質機能亢進症も、ホルモンの分泌が過剰であることが病態の中心にあり、同様に機能亢進型の疾患といえます。
一方、腎不全は腎臓のろ過機能の低下、椎間板ヘルニアによる歩行障害は脊髄神経の伝達機能の低下、気管虚脱は気道の支持機能の低下によって引き起こされます。先天性疾患の多くも、特定の臓器や代謝系の機能が生まれつき低下していることにより、症状が現れます。
やや複雑な例としては、異物誤飲があります。異物が嘔吐によって速やかに排出される場合は、排泄反応の過剰反応と捉えることができますが、腸閉塞に至った場合には腸管の通過機能が障害された状態、つまり機能低下です。
また、猫の肥大型心筋症は、心筋細胞が異常に増殖するという意味では「細胞増殖機能の亢進」といえますが、結果として心臓全体のポンプ機能は低下します。腫瘍性疾患も同様に、細胞の無秩序な増殖(機能亢進)と、それに伴う正常組織の圧迫や破壊(機能低下)という、両面を持ち合わせています。
このように、多くの病態は「機能が過剰か」「機能が不足か」という視点で捉えることで、一定の整理が可能です。そして、病態に対する生体の適応反応もまた、機能を補おうとする代償的な亢進や、さらなる機能低下として現れます。
ただし、すべての病気がこの分類に当てはまるわけではありません。たとえば未発症の遺伝病や、潜伏感染のように、まだ明確な機能変化が顕在化していない病態は、この枠組みでは扱いにくいこともあります。
治療という観点から見ると、「機能が過剰な病気」よりも「機能が不足した病気」のほうが、比較的治療しやすい傾向があります。たとえば、甲状腺機能亢進症ではホルモン分泌を抑える薬剤の調整が必要で、時に難治性を示すことがあります。一方、甲状腺機能低下症ではホルモン製剤を補充することで、比較的安定したコントロールが可能です。
このように、「足りないものを補う治療」は、治療方針が明確であるうえに、生理的状態に近い形で機能を回復させやすいという点で有効です。逆に、過剰な機能を抑える治療は、薬剤の調整や副作用の管理が難しく、バランスを保つことが課題になります。
この「機能の過不足」という考え方は、医療にとどまらず、社会全体の課題にも応用できるかもしれません。たとえば、社会における資源不足への対応は、物資や人材を補うことで比較的早く効果が現れます。一方で、情報過多や過度な競争、慢性的なストレスといった「過剰な状態」を是正するには、より本質的かつ複雑なアプローチが求められます。
総じて言えることは、治療や問題解決の場面では、「不足を補う」ほうが「過剰を抑える」よりも、実行しやすく、安定した成果を得やすいということです。この視点は、病態の理解や治療戦略の構築においても、有効に機能するように感じています。
そんなことを、料理に塩をふりかけながらふと思いました。薄味を濃くするのは簡単ですが、塩気や甘さを後から取り除くのは難しいものです。ほかの調味料でごまかすことはできても、根本的な味の調整にはなりません。それは、病態の調整とも似ている気がします。
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