2025/09/21
ESS

埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
犬の甲状腺ホルモンは、代謝やエネルギー産生を調節し、毛並みや体温、活動性を保つ役割を担っています。甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足することで起こり、犬でもときどき見られます。主な症状は、体重増加、元気消失、被毛の脱落、寒がりなどです。原因の多くは自己免疫疾患であり、治療はホルモン薬の投与です。
甲状腺機能低下症と似た病態に Euthyroid Sick Syndrome(ESS) があります。これは病気や老化によって甲状腺ホルモンの値が低くなる状態です。
ESSでは甲状腺自体には異常はなく、体がエネルギーを賢く使うために調整を行っています。具体的には「省エネモード」に入り、必要性の低い活動やエネルギー消耗を抑える一方、免疫や臓器修復など生存に直結する機能には優先的にエネルギーを回します。たとえば重い病気のとき、筋肉運動や体温維持に使うエネルギーは減りますが、感染と戦う白血球や肝臓の働きにはしっかりとエネルギーが供給されます。
このように、体は無駄な消費を減らし、必要な部分に集中させる仕組みを持っています。まさに生き延びるための戦略といえます。
したがって、甲状腺機能低下症とESSは「甲状腺ホルモン値の低下」という点では同じですが、まったく異なる病態です。
犬でもESSはよく見られます。特に高齢犬や、腎臓病・心臓病・感染症などで体調を崩している犬に多く発生します。血液検査でT4などの甲状腺ホルモンが低値を示すため、飼い主や一部の獣医師が「甲状腺に異常がある」と誤解してしまうことがあります。
しかし実際には、ほとんどのESSは一時的な現象です。体調が回復すればホルモン値も自然に正常化します。また、老化に伴う生理的な変化として現れることもあります。
それにもかかわらず、ESSに不必要な甲状腺ホルモン薬が投与されることがあります。これは犬の体にとって望ましくなく、心拍数や代謝を不必要に上げてしまい、かえって病気の回復を妨げる可能性があります。ESSでは、この自然な調整機構を理解し、安易に薬で介入しないことが大切です。
獣医師は犬の全身状態や基礎疾患をよく観察し、ESSかどうかを慎重に見極める必要があります。一般的に、老犬での不調はESSの可能性が高く、甲状腺機能低下症は自己免疫疾患であるため中年期に発症することが多いです。また、甲状腺機能低下症には特徴的な症状がみられるため、これを知っていると診断の助けになります。
獣医師としてのひとつ意見を述べると、犬の年齢によって甲状腺ホルモンの基準値を区別することが必要だと考えています。
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