ふじみ野市
大井みどり動物病院

2025/09/30

わからない

知らないことではありません
 
 
 
 

 

 
 
埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 
 
医療の現場では、「断言する医者ほど怪しい」という見方があります。普通、医師は医学が不確実性に満ちたものであることを理解しています。診断には誤差があり、個人差があるため、100%確実な答えを出せる場面はほとんどありません。したがって、医師が慎重な表現をするのは、単なる曖昧さではなく、科学的根拠に基づいた責任ある態度なのです。また、医学は「わからないことだらけ」であることを、医学を学んだ人ほど理解しています。
 
 
一方、患者はシンプルな結論を求めることが多く、不安や恐れを抱えているため、診断や治療方針について曖昧な説明をされると、不安が増し、場合によっては不信感を抱くこともあります。特に、医師は何でもわかっていると考えがちです。一般の人には「医学がわからないことだらけ」であるという事実は、なかなか受け入れられにくいのかもしれません。
 
 
例えば、2歳去勢済のオス猫に、しっぽの痒みのない非炎症性の脱毛症(見た目はきれいなまま毛だけがなくなること)が認められてご家族が来院した実際あった事例を考えてみます。もう1年ほど変化がなく、ほとんど目立ちません。軽度で、臨床的に深刻ではありません。
 
 
教科書通り、よく勉強している獣医師であれば、毛を抜いて顕微鏡で確認し、血液検査で内分泌機能を調べたりアレルギーを疑い、除去食を試し、試験的に抗アレルギー薬や抗生剤、駆虫薬を使用するかもしれません。また、あまり行うことのない皮膚の病理組織検査まで徹底的に行う場合もあるでしょう。
 
 
でも、このような脱毛症においては、そのような教科書的な検査をすべて行っても、原因は特定できない場合が多いのです。コストもかかりますし、副作用のリスクも伴います。そのため、現実的で臨床的な判断として、経過観察が最も無難だと判断することもあります。
 
 
経過観察の場合、可能性としては精神的な要因やアレルギーを考えつつ、今後それが顕著になる可能性があることを伝えるかもしれません。試しに、アレルギー食で対応することもあります。また、念のためノミ駆除薬だけは投与しておくかもしれません。
 
 
このような2つの対応方針は、どちらも間違いではありません。私は以前は前者のような積極的なアプローチをとっていましたが、現在は後者のような判断を優先するようになりました。ただし、ご家族の希望を考慮すれば、前者を選ぶ場合もあります。実際には、その間で臨機応変に対応しています。
 
 
つまり、若い猫の軽度な、痒みも炎症もない1年以上変化のない脱毛症について、様々な検査を行っても、多くの場合、明確な原因はわからず、断定できません。
 
 
先日、私の対応が適切ではなかったのは、ご家族の理解度に対してこの説明が不十分だったことです。その結果、「この医師は何もわかっていない」という印象を与えてしまいました。これは完全に私の落ち度です。
 
 
診察開始直後の一瞬で、上記のことを考察済みでしたが、ご家族には単純に「わからない」とだけ伝わったのでしょう。経験を重ねると、さまざまな可能性を先読みできてしまいます。しかし、その思考過程を省いて結論だけを伝えてしまうと、誤解を生むことがあります。
 
 
もちろん、検査したり治療してみないと分かりませんが、そもそも、この軽度な脱毛症を治す必要性はあまりありませんし、まず重病はないです。私の猫なら無対応の経過観察一択です。
 
 
当院の飼い主の中には人の整形外科医や漢方医、病理の検査技師の方がいらっしゃいますが、その方達に説明するのは容易ですが、例外でしょう。
 
 
私は、医師から「わからない」と言われると、「この医師は正直で信頼できる」と感じるタイプですが、少数派でしょう。一般的には、「わからない」は「知らない」と捉えらることが多いのでしょう。
 
 
今回正直にわかりやすく「わからない」とお伝えしてしましいましたが、もっとご家族の背景や理解度を考え、使う言葉や説明の仕方を変える必要があることを痛感しました。医師はこの点を忘れがちですが、非常に大切なことなので、常に意識しておく必要があります。
 


 


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