2025/10/23
親がん、小がん
埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
意外ですが、原発巣(最初に発生したがん)が転移巣(他の部位に広がったがん)の成長を抑える物質を分泌することがある、と報告されています。
一般的には、がんは無秩序に増殖するものと思われがちですが、実際には「自ら増殖を加減」することがあります。これは、がん患者が早期に死亡することを防ぐことで、がん全体が長く存続するためと考えられています。
このような考え方は、獣医学の教科書には全く記載がなく、一般にもあまり知られていません。がん以外では、寄生虫でよく知られています。命をおびやかす寄生虫が少ないのはそのためです。
原発巣からの抑制物質には、アンジオスタチン、エンドスタチン、トロンボスポンジン-1などがあります。これらは血管新生を担う細胞の増殖を抑えたり死滅させたりする作用を持ちます。その結果、転移巣への酸素や栄養の供給が減り、転移巣が「飢餓状態」となって「休眠」することさえあります。
たとえるなら、原発巣はテロ組織の「本部」、転移巣は「支部」のような関係です。「本部」が「支部」への資金や武器の供給を管理することで、「支部」が無秩序に暴走するのを防ぎます。もし「支部」が勝手に増えすぎると、患者自体が死亡し、結果的に「テロ組織全体」も滅びてしまうため、「本部」が程よく調整しているのです。
別の例で言えば、「親がん」が「子がん」を制御しているのです。したがって、仮に親がいなくなると「子がん」が暴れ出す可能性が導かれます。
これにより、原発のがんを外科的に切除したあとに、「転移巣が急速に増殖すること」の機序の一部が説明できます。手術により転移巣の制御が失われ、増殖が加速するのです。
犬や猫でも同様の現象が起こっている可能性はありますが、詳細なメカニズムは十分に解明されておらず、この概念自体も一般的な獣医学にはありません。
私自身の臨床経験では、手術後に腫瘍が急速に進行するケースをいくつか経験していますので、頻度はわかりませんが、それは確実にあると考えています。
大切なのは、安易に「がんは切除すれば必ず良くなる」とは限らないことです。手術によって転移や再発が促進される可能性があることを知っておくのは非常に重要です。なぜなら、犬猫の医療では腫瘍はなるべく広く、深く切除するほどよいという考えが圧倒的だからです。
当院では、腫瘍に対する積極的な手術は慎重に行っています。腫瘍が存在する、あるいは疑いがある場合の手術では、手術が腫瘍進行させる可能性について必ずご家族に説明しています。
この作用をがん治療として利用することがあります。つまり、薬でがんの血管新生を抑制するのです。例えば、犬や猫で使用されるチロシンキナーゼ阻害薬(トセラニブなど)にその作用があります。
でも、一部の経路の遮断により血管新生を抑えても、腫瘍は別のさまざまな経路を使って増殖を続けるでしょう。また、血管は正常組織の修復や再生にも不可欠であるため、健康な血管新生まで抑制される可能性があります。
また、腫瘍のチロシンキナーゼを阻害しても、腫瘍は他の経路を使い狡猾に増殖していくでしょう。
したがって、この薬によるがん細胞を抑制させる効果は非常に限定的かもしれません。また、血管新生は腫瘍細胞だけでなく、正常組織の維持・修復にも必要な普遍的システムです。そのため、正常組織の虚血や修復障害が副作用として現れる可能性があります。
たとえば腸は血流が豊富で上皮の代謝が速いため、抗がん剤により下痢などの消化器症状が起こりやすい臓器ですが、血行阻害が進むと腸穿孔や敗血症のリスクもあります。血管がない組織(角膜、軟骨、爪など)は影響を受けにくいですが、ほとんどの臓器は血流に依存しているため、副作用が全身に及ぶことは容易に想像できます。
また、全身の血流が悪くなれば、体全体ではがんが増えやすくなる可能性がありますので、新たながんを誘発したり、がんの悪化がないとはいえないでしょう。
セカンドオピニオンで他院にてチロシンキナーゼ阻害薬を投与されていた犬では、見たこともないような非常に強い下痢が発生していました。こうした経験から、薬による副作用は腸など血流が豊富な臓器で現れやすく、大きな副作用につながる可能性が示唆されます。
寄生虫は犬や猫とはまったく異なる生物種であり、独自の代謝経路や生理機能を持っています。そのため、寄生虫の生命活動だけを標的とする薬剤(駆虫薬)が存在し、「特効薬」と呼べるものもあります。
一方、がん細胞は正常な体細胞が遺伝子変異によって変化したもので、基本的な構造や代謝は正常細胞と非常に似ています。
そのため、がん細胞だけを完全に選択的に攻撃することは難しく、ほぼ確実に抗がん剤は正常細胞にも影響を及ぼします。故に「がんにだけ効く特効薬」は存在しにくいのです。
とにかく、がんであっても、がん自身が意図的に自ら増殖を制御していることがあるのは非常に興味深く、また、がん治療の複雑さや難しさを改めて実感させられます。
なお、当院のブログは一般的な獣医学に合致しない考えが多くあります。真面目に書いておりますが、一獣医師の独り言として、捉えていただきたく思います。
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