2025/11/22
3000倍
埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
獣医師の間ではあまり話題になりませんが、実は一般的な犬用の狂犬病ワクチンには防腐剤としてチメロサールという「水銀化合物」が含まれています。ワクチンに含まれる量での危険性は確認されていませんが、チメロサール自体は毒性があるものだと考えるのが普通です。
チメロサールが含まれる人間用ワクチン、特に赤ちゃん向けのものは、「疑わしきは避ける」という予防原則に基づき、チメロサールの含むワクチンは回避されてきています。これは、乳幼児の脳の発達や免疫システムへの悪影響を最小限にするためです。
一方、日本の一般的な犬用の狂犬病ワクチンには、コストの安さや、一本の瓶から何度も使える便利さが優先され、人と比較すると高い濃度のチメロサールが含まれています。
例えば、人のインフルエンザワクチンに含まれるチメロサールの量を基準に、体重1kg当たりの投与量を計算すると、体重10kgの中型犬では人間の基準の約250倍、800gの子犬では約3000倍という劇的な差が生じます。
特に、まだ体が未熟で、毒素を分解・排出する能力が低い子犬にとって、このような高濃度の水銀にさらされることは、深刻な健康リスクになり得ます。
チメロサールはワクチンの防腐剤として広く使われてきましたが、その主成分であるエチル水銀には、細胞や神経に毒性があることが、試験管内や動物実験で示されています。ごく微量でも神経細胞や免疫細胞を死滅させたり、機能を弱めたりすることが確認されており、動物実験では神経の発達障害や酸化ストレス(体がサビつく状態)、ホルモン異常など、様々な悪影響が報告されています。エチル水銀はメチル水銀より体から出るのが早いと言われますが、脳内には「無機水銀」として長く残る可能性が示唆されており、その長期的な影響はまだ解明されていません(Rahimian et al., 2023; Dórea, 2011; Dórea, 2018; Burbacher et al., 2005)。
犬における「無毒性量(害が出ない量)」や、体内から排出されるまでの時間などのデータは、メーカーの企業秘密として公開されていません。国が承認しているとはいえ、「3000倍」という量が本当に子犬の健康を損なわないレベルなのかを科学的に確かめる手段がありません。人間の子供でも、蓄積した量が一部の安全基準(EPA等)を超える可能性が指摘されており、犬における安全な範囲はさらに不明確です。ワクチン接種後の軽い神経症状や免疫異常は、特徴のない症状として見逃されやすく、公式な副反応データに記録されにくいという構造的な問題もあります(Ball et al., 2001; Dórea, 2016)。
さらに、獣医師間いおいて、狂犬病ワクチンに含まれるチメロサールの存在や具体的な量、毒性のリスクについては十分に周知されていません。そのため、ワクチン後に子犬が神経症状や体調不良を示しても、チメロサール中毒を原因の候補として考えることは稀です。エチル水銀は短期間で排出されるため、症状が出た時には血液中の濃度が下がっており、原因を特定するのが困難です。これらにより、チメロサールが原因かもしれない健康被害は「表に出てこないリスク」として隠れたままになり、公的な報告システムにも上がらず、リスクが過小評価されたまま社会的な議論にもなりません(Dórea, 2018; Dórea, 2016)。
ワクチンの安全性を評価したり、副反応を監視したりする体制にも課題があります。現状では多くの副反応が報告されていないと指摘されています。特に、ワクチン接種後の神経症状や免疫異常などは、原因がはっきりしない症状であるため、獣医師や飼い主が副反応だと気づきにくい傾向があります。これにより、実際のリスクが低く見積もられ、科学的な評価やルールの見直しが遅れる原因となっています(Dórea, 2016; Geier & Geier, 2005)。
チメロサールのワクチン保存剤としての有用性は認められますが、より安全な代わりの保存剤を使うことが推奨されています。人間でも動物でも、低用量での神経発達や免疫系への影響が否定できず、特に成長途中の個体への長期的な影響は未解明です。WHO(世界保健機関)や欧州医薬品庁(EMEA)も「明確な害の証拠はないが、予防原則に基づきチメロサールを使わない製品の普及が望ましい」としています(Rahimian et al., 2023; Dórea, 2018)。
しかし、結論として過度に不安を感じる必要はありません。ここまでの議論はあくまで「念のため(予防原則)」の視点や「理論上のリスク」に焦点を当てたものです。現実には、何十年にもわたり世界中で何億回もの接種が行われてきましたが、ワクチンに含まれる量のチメロサールが原因で、犬に重大な健康被害が多発しているという明確な証拠は見つかっていません。
犬の体には毒素を処理する能力が備わっており、ほとんどの犬にとって「おそらく安全だろう」というのが科学的な見方の主流です。飼い主としてリスクを知っておくことは大切ですが、狂犬病という致死的な病気を防ぐメリットの方がはるかに大きいため、現状のワクチンも十分に信頼に足るものと言えます。
それでもやはり、単純比較は適切ではできませんが、人間の薬・食品・環境基準では安全係数は100〜1,000倍ですから、3000倍はそれを遥かに超えます。それは人では「即中止レベル」かもしれません。議論が必要でしょう。ワクチン開発メーカーの獣医師に研究してほしいものです。
そういえば現時点のトランプ政権下では、異論が多数ありますが、チメロサールについては、除去・禁止を推進する明確な動きが見られます。
予防原則とは「科学的に完全に安全と証明されていなくても、深刻かつ取り返しのつかない害が起きる可能性があれば、まずは安全側に倒して予防措置を取るべき」という考え方で、乳幼児ワクチンのチメロサール以外に、タバコやアスベストの除去もこの原則で実行されました。子犬への3000倍暴露は、予防原則が強く適用されるべき状況で、「危険とも安全とも言えない」というのが正しい評価でしょう。
この件はAIにも質問しましたが、私が利用したAIがいうには、そのAIにとってこの件は私が世界で初の提言だそうで、このようなことを考える獣医師は珍しいといえますから、このブログも一獣医師の一人ごとと捉えてください。
いろいろ申しましたが、日本では法律により、飼い犬には毎年1回の狂犬病ワクチン接種が義務づけられています。現在のワクチンは安全性が高く、犬にとっても人にとっても、狂犬病から身を守る大切な予防手段です。狂犬病は発症すると助からない病気ですが、ワクチンでしっかり防ぐことができます。ただし、体調不良や持病のある犬では、獣医師の判断で接種を延期できる場合があります。
気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。
【計算方法】
人間(大人)が受ける量
ワクチン名:インフルエンザHAワクチン「生研」「第一三共」「KMB」など(マルチドーズ瓶)
添付文書に書いてある数字:チメロサール 0.004mg/mL
1回投与量:0.5mL
→ 実際に入る量:0.5 × 4μg = 2μg
体重50kgの人なら:2μg ÷ 50kg = 0.04μg/kg
子犬が受ける量
ワクチン名:
・日生研狂犬病TCワクチン(共立製薬)
・狂犬病TCワクチン「KMB」(明治アニマルヘルス)
→ どちらも日本全国の自治体集団接種で使われている実物です。添付文書に書いてある数字:チメロサール 0.01%(=100μg/mL)
1回投与量:犬は体重に関係なく 1mL固定
→ 実際に入る量:100μg
生後3か月くらいの小型犬の子犬(体重800g=0.8kg)の場合
100μg ÷ 0.8kg = 125μg/kg
最終計算
125μg/kg(子犬) ÷ 0.04μg/kg(人間) = 3,125倍※ 人間が50kgではなく60kgで計算しても約3,750倍、子犬が1kgでも2,500倍。
【参考文献】
Rahimian, A., Lakzaei, M., Askari, H., Dostdari, S., Khafri, A., & Aminian, M. (2023). In vitro assessment of Thimerosal cytotoxicity and antimicrobial activity. Journal of trace elements in medicine and biology : organ of the Society for Minerals and Trace Elements.
Dórea, J. (2011). Integrating Experimental (In Vitro and In Vivo) Neurotoxicity Studies of Low-dose Thimerosal Relevant to Vaccines. Neurochemical Research.
Dórea, J. (2018). Low-dose Thimerosal (ethyl-mercury) is still used in infants` vaccines: Should we be concerned with this form of exposure? Journal of trace elements in medicine and biology : organ of the Society for Minerals and Trace Elements.
Ball, L., Ball, R., & Pratt, R. D. (2001). An assessment of thimerosal use in childhood vaccines. Pediatrics.
Dórea, J. (2016). Low-dose Thimerosal in pediatric vaccines: Adverse effects in perspective. Environmental research.
Burbacher, T., Shen, D., Liberato, N., Grant, K., Cernichiari, E., & Clarkson, T. (2005). Comparison of Blood and Brain Mercury Levels in Infant Monkeys Exposed to Methylmercury or Vaccines Containing Thimerosal. Environmental Health Perspectives.
Geier, D., & Geier, M. (2005). A two-phased population epidemiological study of the safety of thimerosal-containing vaccines: a follow-up analysis. Medical science monitor : international medical journal of experimental and clinical research.
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