ふじみ野市
大井みどり動物病院

2025/12/06

脳のクセ

「認知バイアス」
 
 
 
 
 

 

 
埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 
 
認知バイアス」とは、「人間の脳が、楽をしようとして勝手に情報をゆがめてしまうクセ」のことです。このクセがあると、物事を正しく捉えることができません。
 
 
医療現場における診察や診断においても「認知バイアス」が生じることがあり、この「クセ」が診断や治療ミスの要因となることがあります。
 
 
診察において頻繁に報告される「認知バイアス」には、様々なものがあります
 
 
「認知バイアス」による診断エラーは、誤診、過剰・過少検査、不適切な治療、患者の合併症や死亡リスクの増加など、重大な医療事故につながることが報告されています (Saposnik et al., 2016; Loncharich et al., 2023; O’Sullivan & Schofield, 2018; Sibbel & Huber, 2021)。
 
 
対策として、自己認識と反省的実践(自身の思考プロセスの客観的な評価)を通じて、自身の思考プロセスを客観的に評価することが重要とされています (Doherty & Carroll, 2020; Bhatti, 2018; Croskerry et al., 2023)。
 
 
また、複数の視点や意見を取り入れること、特に「デビルズ・アドボケイト(反対意見役)」をチーム内に設けることで、バイアスの軽減が期待されます (Ke et al., 2024; O’Sullivan & Schofield, 2018)。
 
 
つまり、診察においては、時間的な余裕を持ち、常に自分の診断を疑う姿勢で、他者の意見や反証となる情報を積極的に採用していく姿勢が不可欠です。
 
 
特に、獣医師は医師よりは素直であるという研究報告もありますが(Kedrowicz & Royal, 2020)、同時に自負心が高い方も見受けられます。年齢や上下関係に関係なく謙虚な姿勢を保ち、「デビルズ・アドボケイト」による反対意見を素直に受け入れることは、医療の質を高める上で極めて重要です。
 
 
若い獣医師も、ベテラン獣医師も、誰もが様々な認知バイアスに陥る可能性があることを知っておくことは、より良い医療につながります。自身の認知バイアスを認識し、謙虚に向き合う姿勢こそが、より良質な医療対応の鍵となるでしょう。
 
 
とはいっても、「自分は正しい判断をしている」という信念が強い人ほど、自身の認知バイアスを認識しにくくなり、他者のバイアスばかりを指摘する傾向が強まることが報告されています (Oeberst & Imhoff, 2023; Wang & Jeon, 2020)。この現象は、「バイアス・ブラインドスポット」として知られ、自分の考えや判断にバイアス(偏見や先入観、思い込み)があることに、自分自身ではなかなか気づけないという現象です。
 
 
結局、人にはもともと認知バイアスが備わっているといってよく、本来生存に必要なものでした。この医療上の問題を考えるにあたって、そもそも認知バイアスが人間にとってどういうものかという、より大きな視点が必要となります。
 
 
考えてみれば認知バイアスが人によってそれぞれ違うことが、人間の多様性を生み出しているとも言えます。
 
 
そうすると、単に脳が「楽をするための欠陥」なのではなく、進化の過程で生き残るために組み込まれた、人間の根源的な性質とも言えます。
 
 
そのバイアスをよい方に利用すれば、偉大な芸術科学的な発明の独創的な源泉となるでしょう。天才には強烈な独特なバイアスがあるといえるし、子供は常識にとらわれず、バイアスが少ないため、発想が豊かです。
 
 
さらに、深い感動を生み出すための土台となり得ます。感動はこのバイアスが充足されるか、あるいは意外性によって裏切られたときに生じることがあります。同様に怒りの要因にもなり得ます。
 
 
また、偏ったバイアスが国家や集団におよぶと戦争集団的な誤謬(世界の混乱)の温床ともなりうるため、大人数が偏ったバイアスに一気に染まることは非常にリスクがあるとも言えます。
 
 
よって、認知バイアスは、諸刃の剣といえるかもしれませんが、科学では、先進的な分野以外はなるべく排除する必要がありそうです。
 
 
そう考えると、臨床医療の現場は、認知バイアスはあまりよい結果にはむすびつかない分野と言えるでしょう。
 
 
したがって、獣医師にできることは、知識や経験年数に関わらず、「人は誰しも、見落とすように、誤るようにできている」という事実に謙虚に向き合い続ける姿勢であり、他者の視点や反証に耳を傾ける反省的実践が、バイアスがもたらす負の結果を回避し、患者にとって最善の医療対応を追求するためのひとつの方法となるでしょう。
 



参考文献
 
アンカリングバイアス(Anchoring bias)
最初の情報に過度に引きずられ、その後の情報の解釈が歪むことです。例えば、診断を早期に決めてしまい、その後の検査結果を無視して他の可能性を見落とすことがあります(Saposnik et al., 2016; Loncharich et al., 2023; O’Sullivan & Schofield, 2018)。
 
確証バイアス(Confirmation bias)
自分の仮説や初期診断を支持する情報ばかりを無意識に集め、反証となる情報を軽視したり無視したりする傾向です。 (Saposnik et al., 2016; Doherty & Carroll, 2020; O’Sullivan & Schofield, 2018; Sibbel & Huber, 2021)。
 
利用可能性バイアス(Availability bias)
直近に経験した症例や、印象的で記憶に残りやすい稀な症例が、実際の発生頻度以上に診断に過度に反映される傾向です (Saposnik et al., 2016; Loncharich et al., 2023; O’Sullivan & Schofield, 2018; Sibbel & Huber, 2021)。
 
過信バイアス(Overconfidence bias)
自身の知識や経験に基づく判断に過度な自信を持ち、診断の精度を実際よりも高く見積もり、他の意見や新たなデータを軽視する傾向です。(Saposnik et al., 2016; O’Sullivan & Schofield, 2018; Sibbel & Huber, 2021)。
 
早期収束(Premature Closure)
十分な検討や情報収集がなされないうちに早い段階で診断を確定させ、思考プロセスを停止し、他の可能性を排除してしまう傾向です (Loncharich et al., 2023; O’Sullivan & Schofield, 2018; Sibbel & Huber, 2021)。
 
フレーミング効果(Framing effect)
情報の提示方法や文脈(ポジティブな表現か、ネガティブな表現か)によって、判断が論理的でなく左右される現象です。 (Awanzo & Thompson, 2025; O’Sullivan & Schofield, 2018)。
 
暗黙のバイアス(Implicit bias)
人種、性別、年齢、飼い主の属性など、無意識のうちに抱く固定観念に基づいて、診断や治療方針が偏る現象です。 (Fitzgerald & Hurst, 2024; Omar et al., 2024)。
 
「認知バイアス」は、医師の経験年数、高いストレスレベル、時間的制約、不十分な診療環境、個人の性格特性(リスク回避傾向や曖昧さへの耐性)など、さまざまな要因によって強まることが示唆されています (Saposnik et al., 2016; Beldhuis et al., 2021; Loncharich et al., 2023)。特に救急や集中治療など、迅速で曖昧な判断が求められる場面ではバイアスの影響が顕著です (Awanzo & Thompson, 2025; Beldhuis et al., 2021)。
 
「認知バイアス」による診断エラーは、誤診、過剰・過少検査、不適切な治療の選択、患者の合併症や死亡リスクの増加など、重大な医療事故につながることが報告されています (Saposnik et al., 2016; Loncharich et al., 2023; O’Sullivan & Schofield, 2018; Sibbel & Huber, 2021)。


 


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