埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
 
 
当院では外来で急遽麻酔をかけることがよくあります。検査のためにじっとすることが必要な場合や、簡単な手術も行うことがあり、その外来中の時間内に帰宅することは普通のことです。今まで勤務した病院では、そのような対応は嘔吐のリスクがあるとの理由で、行うことはありませんでした。
 
 
イヌ・ネコの全身麻酔や鎮静を安全に行うためには、適切な絶食・絶水時間を守ることが非常に重要です。なぜなら麻酔中に嘔吐すると誤嚥などの危険があるからです。
 
 
健康なイヌ・ネコの場合、最新のガイドラインでは麻酔前の絶食は「4～6時間程度」が推奨されるようになってきています（AAHA 2020ガイドラインなど）。これは、長時間の絶食が胃食道逆流（GER）のリスクを高めたり、動物のストレスや低血糖を引き起こす可能性があるためです。従来のように12時間を超える長時間の絶食は避けるべきです。
 
 
一方、最新の研究では、イヌにおいて「麻酔3時間前に軽い食事（通常の半量）」を与えた場合、10時間前に与えた場合よりも胃食道逆流の発生率が有意に低下したという報告もあります（Savvas et al., 2016）。このため、絶食時間は状況に応じて柔軟に調整され、短めの絶食や軽食が選択肢となり得ます。
 
 
水分については、健康な成犬成猫においては麻酔の「2時間前まで」飲水を許可する考えもありますが、絶水は不要とする考えもあります。過度な絶水は脱水やストレスの原因となるため、直前まで水を与えても問題ありません(AAHA 2020)。
 
 
まとめると、健康なイヌ・ネコの全身麻酔・鎮静前の絶食は「4～6時間程度」が基本で、状況によっては3時間前の軽食も選択肢となります。個体差や健康状態によって調整が必要なため、必ず獣医師の指示を仰いでください（Savvas et al., 2016; AAHA 2020ガイドラインなど）。
 
 
これらから、当院では麻酔や手術は13時から14時くらいに行うことがほとんどなので、朝9時～10時までに朝食を済ませれば、十分に安全な範囲内です。水は抜かなくよいです。（3ヶ月齢以上、健康、2kg以上）
 
 
食事はペットにとって楽しみの一つですし、ご家族の手間にもなりますから、必要以上の制限はしたくないというのが当院の方針です。朝ごはんがもらえず、機嫌を損ねることはしばしばあります。
 
 
当院の麻酔プロトコルでは、適切な管理のもとで嘔吐はほぼゼロです。それより、長時間の空腹で麻酔前に嘔吐するケースがあります。また、麻酔薬の種類やリスク管理により嘔吐の発生は異なりますので、これらも重要です。
 
 
多くの動物病院では従来通り長め（12時間など）の絶食を推奨しているところもありますから、病院や獣医師によって方針は様々です。
 
 
興味深いのは、胃に適度な食物が残っている方が嘔吐や逆流が少なく、完全に空腹にするとかえってリスクが高まる可能性がある点です。長時間絶食は胃酸が増えやすいため好ましくない場合があります。
 
 
絶食と麻酔について上述のような知見を知っておくと、応用が効きます。例えば、外来で急に麻酔をかけることになっても、正しい判断ができます。
 
 
時々、誤って食事を与えてしまって来院するケースもあります。手術を翌日以降に延期する病院もあるかもしれませんが、原則を知っておくと、当日でも適切な管理のもとで安全に麻酔をかけることができます。やはり、ご家族、病院ともにキャンセルは痛手です。
 
 
当院では急遽外来中に麻酔をかけることがよくありますが、これらの知見と安全管理が根底にあり、適切な根拠のもと麻酔を行っています。でも、たいてい最後の食事から4時間は経過しており、困ることはあまりありません。また、速やかに麻酔から覚めるので、たいてい外来時間内にご帰宅できます。
 
 
つまり、原則的に「健康な成犬や成猫においては、麻酔前の絶食は4時間でよく、絶水は不要」であり、外来で急な麻酔が必要になっても、たいていそれはクリアしてるのです。
 
 
当院ではこのように対応していますが、仔犬や子猫（生後8週未満または2kg未満）、疾患のある（糖尿病や吐き戻しのリスクがある）場合はこの限りではなく、個別に対応が必要です。また、多くの動物病院で、手術をする場合、12時間前や前日の夜からの絶食を指示をしているところありますので、かかりつけ医の指示にしたがってください。
 
 
また、あくまで麻酔をかけることだけの場合であり、ここに検査が加わると対応は変わってきますのでご注意ください。