2025/12/26
最善の医療とは
埼玉県ふじみ野市の大井みどり動物病院です。
動物病院のホームページを見ると、「最善の医療を提供します」という方針を掲げているところが多くあります。しかし、何を持って「最善」とするかは、さまざまな見方ができます。
医療とは本質的に「選択の連続」であり、獣医師と飼い主さんがそれぞれの立場から最善を目指して協力していくものです。この協力の形として、近年特に「共有意思決定」が重視されるようになりましたが、基盤となるのは「医学的意思決定」のプロセスです。
「医学的意思決定」とは、診断や治療においてどの方法を選択するかのプロセスです。これは医療の現場で非常に重要なものです。
このプロセスで最も大切なのは、まず正しい診断です。獣医師は症状や検査結果などの情報を集めて診断を下しますが、診断が容易な場合もあれば、はっきりとした答えがすぐに分からない場合もあります。
はっきりしないことがよくあるのは、医療の現場に「不確実性」があるからです。例えば、同じ症状でもいくつかの病気が考えられる場合や、検査結果が曖昧な場合などです。
このようなとき、獣医師は「どの病気の可能性が高いか」「どの治療が一番効果的か」などを考えながら、意思決定をしなければなりません。
診断の際には、「直感的」な判断と、「論理的」な分析の両方を組み合わせます。論理的な分析では、「ベイズの定理」という数学的な考え方を使って、病気である確率を計算することもあります。直感は長年の経験からの言語化できない勘のようなものです。
一方、治療には副作用やリスクがあるため、飼い主さんがどのような生活をペットに望むか、どんな治療を希望するかも重要な要素です。また、検査や治療には費用がかかるため、経済的な面も考慮しなければなりません。さらに、獣医師や飼い主さんの感情や思い込みが判断に影響することもありますから、なるべく客観性を保つことが求められます。
最近では、獣医師だけでなく飼い主さんや家族も一緒に話し合いながら治療方針を決める「共有意思決定」が重視されています。これにより、飼い主さんが納得して治療を受けられるようになり、信頼関係が強まります。
ただし、共有意思決定を過度に強調し、飼い主さんの希望を尊重しすぎると、逆に「獣医師としてしっかり決めてほしい」と感じる飼い主さんが出てくる可能性もあります。
実際の研究でも、大多数の飼い主さんは獣医師と協力して決定したいと考えていますが、一部(約10〜25%)は獣医師が主導的に決めてくれるスタイルを好む、特に緊急時や複雑なケースで負担を感じたくないという声もあります。
共有意思決定の本質は柔軟性にあり、完全に飼い主さんに任せきりではなく、獣医師が専門知識に基づいて明確な推奨をしつつ、飼い主さんの好みや価値観に合わせて調整する形です。こうすることで、飼い主さんの満足度が最も高まります。
動物病院における医学的と共有意思決定は、獣医師がペットと飼い主さんのために最善の診断や治療を選ぶための大切なプロセスです。そこには科学的な根拠や経験、飼い主さんの希望や価値観、経済的な状況など、さまざまな要素が関わっています。医療の現場では、正しい判断をするために、論理的な考え方と人間らしい思いやりの両方が求められています。
したがって、獣医師は正しい診断(適切な不確実性を含む)から導かれた複数の選択肢(治療の効果、副作用、費用、予後など)を明確に説明しつつ、獣医師として明確な推奨を行った上で、飼い主さんの思いや決定スタイルを尊重した柔軟な対応を行うことが、「最善の医療」と言えるでしょう。
生き物相手ですので不確実性が大きく、そのあいだに様々な価値観のご家族が介在するため、数限りないパターンが存在し、最善の医療は多種多様です。そのため、一言で言えば、最善の医療とは柔軟性だと言えるでしょう。
参考文献
- Vandeweerd, J. M., et al. (2014). Veterinary clinical decision-making: cognitive biases, external constraints, and strategies for improvement. *Journal of the American Veterinary Medical Association*, 244(3), 271-276. https://doi.org/10.2460/javma.244.3.271
「獣医師はしばしば不十分な情報と高い不確実性の中で決定を迫られる。高品質な科学的証拠が不足している場合が多く、決定を導くための情報が限定的である。」
- Cummings, C. O., et al. (2022). Bayesian Decision Analysis: An Underutilized Tool in Veterinary Medicine. *Animals*, 12(23), 3414. https://doi.org/10.3390/ani12233414
「ベイズの定理は、診断の事前確率(有病率)と臨床所見の条件付き確率を基に、後験確率を計算する。獣医臨床では、経験に基づく直感とベイズ推論を組み合わせることで、より正確な診断が可能になる。」
- Janke, N., et al. (2021). Pet owners’ and veterinarians’ perceptions of information exchange and clinical decision-making in companion animal practice. *PLOS One*, 16(2), e0245632. https://doi.org//journal.pone.0245632
「治療決定では、飼い主の価値観、経済的制約、獣医師の推奨が影響する。飼い主は複数の選択肢(費用、利点、欠点を含む)を提示され、尊重されることを期待する。感情的なバイアスを避け、客観性を保つことが重要。」
- Ito, Y., et al. (2022). The relationship between evaluation of shared decision-making by pet owners and veterinarians and satisfaction with veterinary consultations. *BMC Veterinary Research*, 18, 353. https://doi.org/10.1186/s12917-022-03401-6
「共有意思決定(SDM)は、獣医師と飼い主が一緒に話し合い治療方針を決めるプロセスである。これにより、飼い主の満足度が高まり、信頼関係が強化される。獣医医療でもSDMが重視されている。」
- Plumb’s Standards of Care (2025). Veterinary Algorithms for Diagnostic and Treatment Guidance. Standards of Care (formerly Plumb’s Pro). https://standards.vet
診断・治療アルゴリズムは、複雑な情報を整理し、ステップバイステップで決定をサポートする。獣医臨床では、臨床兆候から診断・治療の選択肢を明確にし、より良い決定を助ける。」
- Grant, K., et al. (2025). Clients prefer collaborative decision-making with veterinarians regardless of appointment type. *Journal of the American Veterinary Medical Association*. https://doi.org/10.2460/javma.24.06.0421
「飼い主は、予防・一般・緊急のいずれの診療でも、獣医師との共同決定を好む。不確実性を伝え、複数の選択肢(効果、副作用、費用、予後)を明確に提示し、飼い主の希望を尊重することが、最善の医療を提供する鍵となる。」
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